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――わたし、生きてんな?
息を吸って、肺が膨らむ感覚。温かい布にくるまれている。目はまだうまく開かないけれど、皮膚に触れる空気の匂いは前世の病院と違ってどこか草のような香りがする。ああ、どうやら本当に生まれ変わったらしい。
身体の感覚が妙だ。小さい。腕も脚も動かそうとすればぴくりと震えるだけ。でも、どことなく“男”の体だってわかる。胸のあたりが平たいし、骨格の感覚が微妙に違う。驚いたかって? いや、驚いたさ。でも、そもそもまた人間に生まれ変われたこと自体が奇跡だし、男だ女だなんて些事だろうと赤子の体で思い直した。
耳に届くのは、やけに緊張した大人たちの声。誰かが泣いているような、誰かが祈っているような声。わたしはどうやら貴族の家に生まれたらしい。母から生まれた最初の子。つまり嫡男。……嫡男かぁ、跡継ぎめんどくせぇ。そんなことを赤ん坊のくせに心の中でぼやく。
だが、何かがおかしい。母は寝ているようで、父らしき人間も笑顔を見せない。むしろ周りの大人たちがざわめいている。視界の端に揺れる蝋燭の灯り。漏れ聞こえる話を総合すると、わたしの容姿が原因らしい。
――黒髪に、赤い目。
その言葉が出た瞬間、場の空気が少し重くなった。黒は闇を、赤は血を連想する。だから、この“抱き合わせ”の子どもは悪魔の生まれ変わりだと言われているのだという。
アホらし、と思わなくもない。でも、わかるよ。人間ってコミュニティの外から姿かたちの違うものが来ると本能的に怖いんだ。わたしだって前世で、突然外国人がどかっと隣に座ったら一瞬びびったことあるし。ましてここは中世風の世界、迷信やら伝承やらがまだ生きている時代。悪魔という存在が本当にいるかもしれない世界で、異質な赤子が生まれたら怯えるのも無理はない。
ふぅ、と心の中でため息をつく。泣き声ひとつ上げない赤子に、大人たちはさらにざわめく。悪魔の子は泣かないのだ、と誰かが囁いた。知らんがな。泣いたほうがいいのか、笑ったほうがいいのか、どっちにしても面倒くさい未来が待っている気がする。
――まあいいや。生きてる。それだけで勝ちだ。
わたしは小さな拳をぎゅっと握って、ゆっくり目を閉じた。




