7
夜風が通り過ぎていく。
暖かな食堂を出たばかりの身には夜気が堪え一人、寒空の下で物思いに耽っていた。
周囲は先ほど食卓に並んでいた野菜や、色とりどりの草花が植えられている。
奇岩の頂に建つ建物。その傍らに設けられたこの庭は、崖に隣接している。
甲斐甲斐しく庭に手を入れながら過ごす日々と、ここから一望する景色は彼女に何を与えたのだろうか。
先の話を思い返しているとふと、そんなことが思い浮かんだ。
――一つ目は、私をここから連れて行ってほしい。貴方に付いて行きたいの
なんとまぁ余計な話を聞いてしまったものだ。
どういうつもりか知らないが、はっきりと言って邪魔でしかない。
これはきっと二つ目のお願いとやらもさぞ面倒なものだろう。
そう身構えて話を聞いてみれば意外にも簡単なものだった。
大した手間ではないし、一つ目と違って後腐れがない。
とはいえ、直ぐに首を縦に振るのもどうだろう。
――少し考えさせてくれ。
そう言って幾ばくかの猶予をもらい夜の帳が下りた庭園を一人、重い靴音と共に歩いていた。
この話の主導権はメリアにある。
正直、彼女のお願いを聞かなかったくらいで痛むような良心など持ち合わせてはいない。たとえ相手が命の恩人で子供だとしても。
だが彼女を頼らなければ帰ることができない。
――もし、私のお願いを聞かなくてもちゃんと帰り道は教えるから安心して。
そんなことを言われたが、会って数時間で信用しろと言われても無理があるだろう。
何より二つ目のお願いを思えば、断った俺を帰さないという選択を取ってもおかしくはない。
思わず仰いだ空へ一つ息を吐く。
視線の先では数え切れない程の星々が白く輝いている。この世界に来たばかりの頃は、思わず感嘆の溜息が漏れた空だった。
何故こんなことになったのか。どうにも面倒なことになってしまったと思う。いっそのこと、何も言わずこの場から去るのはどうだろう。
適当にふらついてみれば案外帰れるかもしれない。
大体、帰れなかったとして何か不都合があるだろうか。
それが俺達の運命だったということだろう。
初めから面倒事に頭を悩ませる必要などないじゃないか。
部屋に戻って一息入れ、メリア達が寝静まってから離れよう。
あぁそうだ。これで全て解決するに違いない。
面倒ごとから解放されたと思い、庭園を後にする。
先程までと変わらない靴音だけが夜の中に響いていた。




