第二十三話
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それからの一週間、宏と由香には思わぬ事態がまっていた。それは甚だしいまでの中傷の嵐であった。
自分たちのことに気付いた内藤母娘が由香と宏に手練手管を使って様々な圧力を加えたのである。
SNSを用いた中傷では『中年の刑事をたらしこんだ魔性の中学生』と由香の事を示唆し、素行の悪い少女として騒ぎ立てた。また中島美紀を自殺にいたらしめた虐めの首謀者としても由香を名指した。
宏に対しては副島洋子と禁断の関係に陥った不良高校生としてレッテル張りし、副島洋子を自殺に追い込んだ人間として糾弾した。
こうしたセンセーショナルな見出しはネット上でも拡散され、学校でも知られるようになった。そしてそれが伝播して週刊誌でも扱われるようになっていた。僅か一週間でネットの世界でも現実世界でも二人は追い詰められたのである。
さらに、父の環境にも変化が現れた。なんと『リストラ』話が会社の中で出始めたのである。宏と由香の一件が飛び火して父にもその影響が生じたのだ。内藤母娘が献金した政治家を道具として使い、父の勤める会社の役員に働きかけたのである。子供に対する監督責任を理由に父、雄太も針のむしろに座る状態に追い込まれていた。
『……父さんまで……俺たちの影響が』
夢魔という存在が引き起こした事象は現実世界で宏たちに最悪の影響を与えていた。
『クソッ……何でこんなことに……』
宏は『自分たちは悪くない』と確信していたが、相手が大きすぎて反撃するすべはみつからなかった。内藤家の雇った複数の弁護士、息のかかった代議士、そして金でつながった地元連中……宏一家にはあまりに大きな敵が立ちふさがったのである。
『この勝負……絶対、勝てない……』
宏がそんなことを思った時である、その脳裏に可憐な少女の言葉が浮かんだ。
『此岸のことは此岸で……』
2人の前に置かれた厳しい現実を自分たちの力で乗り越えろと言う意味である。だがはたしてそんなことはできるのだろうか……15歳の少女と16歳の少年にはあまりに厳しい状況である……
*
そんな時であった、宏のスマホがけたたましい音を鳴らした。宏は父からの連絡かと思ったが、ディスプレイに表示された番号は思わぬところからであった。
『これ、取り調べの時の刑事じゃないか……』
宏は一瞬不安になったが『これ以上失うものはない』と思い、電話を取った。
*
「もしもし」
宏がそう言うと一命を取り留めた安倍が答えた。
「悪いね、突然、電話して……」
安倍は申し訳なさそうな声を上げた。
「テレビで君たちの置かれた状況を見たんだ……』
安倍はそう言うと単刀直入に自分の想いを伝えた。
「伊藤さんの事と副島先生の事では君に不愉快な思いをさせた。申し訳ない……」
取り調べで不愉快ない思いをさせた当人の謝罪は宏にとって驚きであった。権力の申し子ともいうべき警察官が謝るとは思わず宏は面食らった。宏はとりあえず相手の出方を窺おうという姿勢で会話を続けることにした。
「別に……もういいです」
宏がそう言うと安倍はホッとした声を出した。
「実は君の妹さんに言われた事なんだが……その……夢魔っていう存在について話してくれないか」
言われた宏は驚いた声を上げた。
「本気ですか?」
「ああ、伊藤さんが意図的な事故を起こした時、その眼を見たんだが、あの目は明らかに異常だった。河原で集団昏睡した子たちと同じ眼だったんだ……普通じゃなかったよ」
宏は安倍の言動に含みがないと思うと正直に話すことにした。
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「そんなことが……」
宏が中島美紀の虐めから始まった夢魔に関わる事象を時系列に並べて話すと安倍は嘆息を漏らした……
「じゃあ、事故で死んだ中島美紀さんを虐めていた人間は夢魔に侵食されていたんだね?」
安倍がそう言うと宏は『はい』と答えた。
「妹もそうでした……やつらは良心の呵責から生じた心の隙間に入り込むんです。そしてその人間を夢の世界から侵食していくんです。」
にわかには信じがたいことであったが、伊藤の見せた眼中にあった異常性を認知した安倍には宏の話が嘘には思えなかった。
『夢魔か……存在するのかもな……』
安倍は副島洋子の遺書を意図的に紛失した伊藤の所作と自分を事故に見せかけ殺そうとした行為に尋常ならざるものを感じていた。
『もう少し詳しいことを聞かせてくれないか』
安倍がそう言うと宏は詳細をまとめた。
*
宏の話に安倍は困惑することもあったが、起こった事象を分析すると宏の話に齟齬はなかった。
『君の話だとショットガンを持った子が夢世界の中で夢魔を倒して事件を解決してきたってことだけど……内藤さおりのケースは無理だってことだよね……』
『はい、良心をなくした者の夢の中には入れないって……心を揺り動かすようなことがないと……』
『心を動かすか……』
安倍は宏の言葉に思いを巡らせた。伊藤は廃人になり、自身も車いすの生活を余儀なくさた。そして無実の少年と少女は誹謗と中傷にさらされ、その父親はリストラされんとしている……あまりに理不尽な現状は警察官として許しがたいものがあった。
『……ちょっと調べてみるよ、ひょっとしたら何か手がかりが見つかるかもしれない』
安倍はそう言うと早速行動に移った。
*
宏と由香のもとには週刊誌の記者連中が毎日のように押し掛けた。朝夕関係なく押し寄せる取材陣はインターフォンを鳴らすと二人の様子をとらえようと獣のごとき動きを見せた。中にはドローンを使って家の中を盗撮しようとする輩さえもあらわれはじめた。
日頃、人権を守れと叫んでいる人間にもかかわらず、取材となると人権を蹂躙するという矛盾を見せる彼らの姿は、畜生にも劣る愚劣な存在に見えた。
だが、宏も由香も夢魔という精神を苛む化物と対峙した経験をもつ存在である、マスコミ連中のプレッシャーで屈するほどのやわなメンタルではなくなっていた。
むしろその違法と思える取材姿勢を逆手に取ると二人は反撃に転じた。機転を利かせた由香がスマホを使ってレポーターを撮影すると宏がその様を動画サイトにアップロードするという手段に打って出たのだ。
そして、その結果……アップされた動画を見た連中が面白半分で動画を拡散したり、マスコミ嫌いの連中が違法な取材を行うメディアサイドの批判を展開したりと想定外の事態が現実で生じたのである。
宏と由香をただの中高生だと思っていたメディア連中は思わぬ反撃で醜態をさらし取材方法の変更をせざるを得なくなっていた。
だが、その一方、内藤母娘に対する反撃方法は見つかっていなかった。
夢魔という存在を表に出した所で誰も信じないだろう……オカルトチックな話で世の中が動くことはない。それに内藤母娘は地元で顔の聞く権力者である、財力にものを言わせた攻勢をかけてくるのは間違いない。
『どうしたらいいんだ……』
宏と由香は頭を抱え込んだ。
そんな時である、3日ぶりに安倍から電話がかかってきた。
*
『遅くなってゴメン……でも君たちには吉報を届けられるよ』
安倍はそう言うと明るい声を出した。
『僕は入院してて動けないけど、君たちの反撃には手をかせると思う』
安倍は事故で頭部の裂傷と大腿骨の複雑骨折を患って入院していたが、人脈を駆使して得た結果を宏に話した。
『内藤家のことを調べてもらったんだ、そしたらとんでもないことがわかってね……』
安倍はそう言うと弾んだ声で内藤さおりの祖母のことについてふれた……宏はその声色を信じると耳を傾けた。
内藤母娘の力により圧力をかけられた宏と由香は現実世界で追い詰められますが、伊藤の相棒であった安倍という刑事と連絡を取ることで、内藤家の秘密を知るに当たります。
はたして内藤家の秘密とはなんなのでしょうか?




