第十六話
前回(第十五話)において、後書きで書くべき内容を前書きに書いていました。(ネタバレが含まれているため本文を読む必要がないという事態になっていました……)
読まれた方、申し訳ありません……(すでに訂正済みです)
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由香が絵里との会話を終えて病室を出ると……待っていたとばかりに浅間中央署の安倍が現れた。
「君に聞きたいことがあってね」
安倍は胡散臭げな眼で由香を見た。
「別に悪いことはしていませんけど」
由香がそう言うと安倍は昏倒事件について切り出した。
「昨日の事件で、君以外の子たちはみな倒れたんだけど、君は倒れなかった、どうしてかな?」
安倍は由香が毒を盛ったような目で由香を見た。
「私が犯人だっていうんですか?」
「君たち兄弟は妙な事件現場に常にいる、疑われるのが当然だと思うんだがね。反論するなら潔白を証明したらいいんじゃないか」
安倍はもっともな意見を由香にぶつけた。だが由香はそれに対し激高した。
「夢魔の存在に気付かないからこうなってるのに……警察はどうしてそれがわからないの!!」
「そんなわけのわからない存在でごまかそうとしても警察は納得しないよ」
安倍は捜査官の眼を由香にぶつけた。三白眼にしたそれは実に嫌らしく普通の中学生ならその圧力だけで屈する厳しさを含んでいた。
だが夢魔という夢の中に現れる化け物と対峙し、死ぬ寸前まで追い詰められた由香には安倍のプレッシャーはさほどの意味がなかった。
「自分たちの捜査がうまくいかないからって、無実の人間に疑いの目を向けてもなにも解決しないんじゃないですか、私が犯人だって言うなら証拠をつきつけたらいいじゃないですか!」
痛いところをつかれた安倍は由香を睨みつけた。
「この事件の背景には中島美紀ちゃんの虐めがあることをうすうすわかってるでしょ。ブラスバンド部の子は多かれ少なかれあの虐めの加害者なんだから……」
由香はそう言うと涙目になった。
「あの事故の時に警察がきちんと調べて……私たちの罪を裁いてくれたら、副島先生は死ななかっただろうし、今回の事件だって起こってないわよ」
由香はそう言うとその場を駆け出した。
安倍はその後ろ姿を何とも言えない表情で見送ったが、それと同時に別の考えがもたげてきた。
『交通事故で亡くなった中島美紀……やはり虐めが背景か……副島洋子の自殺、そして今回のこん睡事件……すべてつながっているのか……』
安倍はそう思うと苦虫を潰したような表情を見せた。
「調べなおす必要があるかもしれないな……」
安倍はひとりごちると目を覚ました他の生徒の所に向かった。
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女は手にしたものを見て納得のいく表情を見せた。
『これがあれば……枕を高くして眠れる……』
女は心中そう思うと、その便せん二枚に火をつけた。
『これで安泰だわ……』
女はほくそ笑むと後ろに控えていた男に目を向けた。
「よくやってくれました。」
女が声をかけると後ろの男が声を上げた。
「金だけじゃ……足りないんですが」
男は実に卑下た笑みを浮かべた。それに対して女は小さく頷いた
「いいわ、来て」
女が言うや否やであった、男は女に詰め寄りその腰を引き寄せた。
「前から……あんたのことを……」
男は野獣そのもの表情を見せると月明りで怪しく輝く女の唇にむさぼりついた。
女は浅ましい男の姿を感情のない眼でみた。
『これで、いいわ。私の計画通り』
そう思った女の影には明らかに人とは思えぬ存在が映っていた。
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宏は再び演劇部の練習に顔を出し始めたが……副島洋子が自殺してから妙な噂が立っていることに気付かされた。
『一年のあいつさあ、自殺した中学校の教師と関係あったらしいぜ……』
『関係って?』
『そりゃ、夜に自宅に行くんだぜ……何かあるに決まってんじゃん』
『マジかよ……』
『年上の教師と禁断の関係ってか』
悪気があるわけではないのかもしれないが、生徒たちにとって宏の存在は格好のネタになっていた。
好奇心を多分に含んだ視線、妙に気を使った上級生の言葉、微妙な距離感……誰一人として宏に対し普通に接する者はいなかった。
『俺の兄貴、警察署の隣にある会社で働いてるんだけど、あいつがパトカーで連行されるところ見たんだって』
『えっ、マジで……じゃあ、ひょっとして?』
『ひょっとすると、痴情のもつれから、あいつが先生の事を……』
『突き落したのか?』
上級生の1人が思わず出した声は意外に大きく、他の部員たちの耳にも入った。そして部員の宏を見る目がかわった。それは突き刺すようでいて、そして自分には話しかけるなという警戒感が強く出ていた。
宏はとその雰囲気を察すると耐えられずに部室を出た。
*
宏は校舎の屋上に向かうと空を見上げて渋い表情を見せた。
『夢魔に襲われてから……現実の生活も……変わったな……夢での出来事が現実を侵食しているみたいだ。』
宏は部員たちの視線から現在の自分の置かれた状況が芳しくないことを思い知らされた。
『副島洋子、鈴木絵里、そして由香……浅間中学のブラスバント部を中心に夢魔が触手を伸ばした。そして副島洋子は死に……鈴木絵里は廃人寸前まで追い込まれた。だが今はその余波が現実世界の人間に影響を与えている。』
高校一年生の少年にとって妙な噂から人に避けられるというのは大変苦しく、冷たい視線を浴びせられるのは実にこたえた。
『夢魔の話をしても理解できるのは被害者だけだ……普通の人間がその話で納得するとは思えない……』
宏は自分の置かれた状況を悲観したが、その状況を嘆いたところで事態が好転するわけではない。気持ちを切り替えるため昨日の由香の話、絵里の容態の事を思い起こした。
『夢魔に侵食された人間は普通ではいられなくなる……』
神経障害が全身に現れた鈴木絵里は話すこともままならず、特に顔面神経に至ってはほぼマヒに近いところまでいたっていた。
『たとえ、助かってもただでは済まない……』
宏がそんなことを思った時である、いつの間にか可憐な少女が隣に立っていた。
『なかなか鋭い考察だな』
少女は宏の心を読んでいるようで、脳裏にあった考えを看破していた。
『夢の中で現れた夢魔はその人間に影響を及ぼし、現世にも毒牙をむける。奴らはそう言う存在だ……』
少女がそう言うと宏が口を開いた。
「夢魔にむしばまれた人間は最後どうなるんですか?」
少女は宏の質問に対し即答した。
『死ぬまで夢魔にしゃぶられたあと自我が崩壊し、廃人としての道を突き進む。そして……その先には何もない。冥途に行くこともできず絶対闇の中をさまよい続ける』
少女は淡々と口にしたがその内容は宏にとって想像を絶していた。
『人は誰しも心に闇を抱えている。だが、普通はその闇が具現化することはない。日々の生活の中で精神を整え、その闇が出ないように自制するからだ。だが心の中の葛藤が間違った方向に向かった時……ヤツラは間違いなく忍びこんでくる。』
少女は宏を見た。その眼は透き通っていてすべてを見通すような透明感があった。
『夢魔に蝕まれた人間に明るい未来はない。お前たち兄妹のように5体満足で現世に戻れるのはまれだ。』
言われた宏が大きくため息をつくとしゃがれた声がそれに続いた。
『俺たちは夢魔を倒すことはできても現世に介在することはできない。お前の身に起こっている中傷は俺たちにとってどうにかできるものじゃねぇ』
しゃがれた声は神妙な言い方で続けた。
『宏、俺たちはボランティアでこの仕事やってるわけじゃねぇ。夢魔を倒すためにここにいるんだ。たとえ夢魔の余波が現世でお前に対する誹謗としてあらわれても、それはおまえ自身で乗り越えるしかねぇ……冷たい言い方かもしれないが、俺たちとお前との間には溝があるんだ』
言われた宏は唇を噛んだ。
『お前は五体を動かすことができるし、その精神も夢魔に侵食されていない。』
しゃがれた声の言い方は辛辣であったが、現在宏が抱えた誹謗中傷が小さなものでしかないことを示唆した。
『生きてりゃ、いやなことも辛いことある。だがお前には前に進める体と心がある、それで充分じゃないのか』
修羅場をくぐり、数々の夢魔をその手にかけてきたリーパーの言葉は宏の中でわだかまっていた心の澱をとかした。宏は顔をあげると少女を見た。
「夢魔を追いましょう、何か手がかりは?」
宏が気持ちを切り替えてそう言うと少女が渋い表情を見せた。
『正直に言うとわからない』
「えっ……」
宏がまさかという声を上げるとしゃがれた声がそれに答えた。
『通常、人に巣食う夢魔は俺たちにとって感知できないものじゃない。お前にしろ、副島洋子にしろ、今回の鈴木絵里にしろ、その背後にいる奴らの事は手に取るように分かった。』
だがしゃがれた声の内容とは裏腹に少女は厳しい表情を浮かべた。
『一連の事件の発端、そしてその元凶になる夢魔の根はまだ見えていない……』
夢魔を刈り取るリーパーにとってそれはありえぬことであった。
『奴は深く潜り込んでいる……そしてまだその姿を見せていない』
少女の吐露は現世で再び事件が起こることを示唆していた。
副島洋子の自殺が思わぬ余波を拡げ、宏を精神的い追い込みますが……可憐な少女としゃがれた声の持ち主のアドバイスにより宏は落ち着きを取り戻します。
ですがその一方で、夢魔の『根』となる存在はその手がかりさえ見つからない状況です……はたしてこの後、どうなるのでしょうか?




