032[死亡フラグ]
その日、イデアの髪色を羨ましそうにしながら梳かし、
微笑んでいた穏やかなモーントが突然、ある意味で行方不明になり、
怖い雰囲気の人になってしまった理由は、今日が、
モーントとフェーブスの20歳の誕生日だからであったりする。
そして、その日のモーントは、モーントらしくなく、
憤り、焦っていた。今回は、彼にとって特別な日で、
スルーしてしまったイデアの誕生日を自分達のと一緒に祝う為に、
「秘密裏に色々準備していた」と言う理由がある。
この国の守護竜カルフェンと自分の父親のシュピーゲルが城にて、
「誕生日パーティーの会場の準備してくれている」と言う状況もあった。
モーントは、今日までの準備を無駄にしたくなくて…、
守護竜と父親との「2人を連れ帰る」約束を護りたくて…、
双子の弟フェーブスと従妹のイデアを喜ばせたくて…、
2人を連れて、準備した誕生日会の会場に間に合う様に行きたくて…、
必死になっていた……。
だから、何時もと違う敵陣営の雰囲気に気付かず。
それに気付いたイデアの『これは、罠かもしれません』と言う言葉や、
『援軍を呼びましょう!』と言う言葉を制し、
モーントは『大丈夫!僕には、人とは違う素質があったでしょ?
イデアが教えてくれた秘策を使えば、多少の想定外くらい平気だよ、
ちゃんと対処してみせるから』と笑って、乗っていた馬に鞭を入れ、
イデアの『駄目ってば!戻って!』と言う悲痛な叫びに答える事無く、
モーントは誰よりも早く、
一番最初に、敵陣営に突っ込んで行ってしまう。
更に、モーントに触発され『あ!抜け駆けズルイ!俺も、俺も!』と、
モーントを追い掛けてフェーブスまでも、先に行ってしまった。
イデアは、アオスブルフ陣営に加わってから初めて出遅れに焦り、
『こんなタイミングで出遅れるだなんて!』と吐き捨て、
『グラシュタン!私を2人の所へ!
そして、出来そうなら、2人を戦線離脱させて下さい!』と頼み、
戦場へ着くなり、馬の姿のグラシュタンの上から飛び降り、
戦いの中へと舞い降りた。
戦場には幾人もの、トリタ神軍の遠征部隊のメンバーが混じっていた。
グロブスが率いている部隊の者ではないが、
実践慣れした男等の馬術と剣術は、
どんなに頑張っても、一石二鳥でどうにかできる代物ではない。
イデアは雑魚を無視し、何時もは考えている退路の確保を犠牲にして、
モーントとフェーブスの事を追い掛ける。
その戦いの最中、モーントは普段のフェーブス以上に先走っていた。
戦ってみて、敵の強さを実感したフェーブスが、
『モーント!これヤバイ!
不味い戦況だぞ!1回引いて、体制を立て直そう!』と叫ぶ、
の、だが…、モーントは、フェーブスの制止の声をも無視し、
敵将の方へ単独で突っ込んで行ってしまう……。
突っ込んで行ってしまった先でモーントは、
剣術だけでは…、火の魔法の力だけでは足りなくて……。
傷だらけになりながら、イデアに教えて貰ったばかりの、
水霊と火霊の亜種としての力を惜し気もなく存分に使い始めた。
モーントが敵である相手の肌に直接に触れると、相手は…、
悲鳴を上げる事無く一瞬で干乾び、崩れ落ちて行く……。
イデアは、それに気付き、
『モーント!駄目!それやり過ぎ!
それでは、モーントの体への負荷が掛かり過ぎてしまう!
フェーブス!お願い!モーントを止めて!止めさせて!』と、
大声で叫んだのだが、イデア同様、フェーブスも、
目の前の敵に苦戦し、モーントの居る場所まで、中々辿り着けない。
その間も、モーントは人間を干乾びさせると言う荒業を使い。
吐血しながら、血塗れになりながら、敵将の元へ突き進んでいた。
そして気付けば、その戦いの外側にゴーレムが加わり。
アオスブルフの他の奇襲部隊の面々は、その姿を残す事無く、
平坦で血生臭い真っ赤な水溜りへと姿を変えていた。
この日の、この時、イデアは、前日に、
水霊と火霊の亜種としての力の使い方をモーントに教えた事を悔やみ。
『私も、モーントの様に命を掛けるべきだよね』と独り言を言って、
生きている者、死んでいる者が垂れ流した紅い液体にの上に降り立ち、
その中で両膝を突き、
岩場ゆえに滲み込まず残った紅い水溜りに素手で触れて、
水霊の力を溶かし込んで、肉食の水属性の生き物を呼び出す。
その生き物は、イデアを筒状の本体に閉じ込め、
上の方にある口から8つの触手を何倍にも伸ばし、
岩場に溜まった紅い水をすべて回収すると、
触手にある刺胞と言う毒針で、生粋の人間のみを麻痺させ食べ始めた。
イデアは生き物の体の中で、生き物の食事風景を一瞬、凝視し、
その生き物の腹の中で簡単に溶けて行く人間を一度だけ見て目を背け、
視界に入る身の熟しが他とは違う男達を一人づつ指さし、
触手で襲わせ、その生き物に食べさせて行く。
人間を麻痺させて食べる謎の生き物は、
イデアが指さなくても、隙を見付けて自由に食事をするので、
そこは、何時の間にか、血みどろの戦場ではなくなっていた。
自国に逃げ帰ろうとする者。異変を感じ戻ってきた前衛の者。
戦況を知らず進軍してきた後衛の者達でごった返し、場が混乱し、
面白いくらい簡単に、
イデアが呼び出した生き物に人間が食べられていく。
そんな生き物の中で、イデアは従兄な2人を心配して見守る。
程無くして・・・
無茶な魔法を使って息も絶え絶えになったモーントの所に、
フェーブスが辿り着き、その体を支え、
馬の姿のグラシュタンが、その2人に駆け寄って行くのが見える。
イデアはそれを見て安心し、自分を生贄にして良かったと思った。
の…、だけれども……。謎の生き物に襲われる事の無い3人は、
イデアの近くまでやって来た。
『ねぇ~グラシュタン?「2人を戦線離脱させて下さい!」って、
私は、御願しませんでしたっけ?』
『うん、そうだけど…、この状態、ヤバいよね?
イデア、このままだと…、死ぬまで、この場所から動けないよね?
この生き物の苗床になって、
こんな場所で、この生き物を量産する事になるんじゃないのかな?』
『そうだね、そうなったら、そうなったで良いんじゃないかな?
アオスブルフが、この場所から敵に進軍される事が無くなって、
戦況が楽になると思うよ?多分だけど』と、
フルグル国側の人間が食い荒らされる中、普通に会話する事になる。
イデアとグラシュタンが、のんびりと話していると、
吐血し、時々、咳き込んでいるモーントが、蒼白になった顔で、
『僕を助ける為に、自分を犠牲にしたの?』と訊いて来る。
イデアはにっこり笑い。
『無事じゃなさそうだけど、モーント様が生きててくれて良かった。
申し訳ないのだけど、シュピーゲル様に伝言お願いしますね!
で、「この道に、人間を立ち入らせないで下さい。」と言う事で、
よろしくお願いします。』と言ってから、
『フェーブス様、グラシュタン、頼むよ……。
モーントを死なせたくないから、カルフェン様の所まで、
モーントを緊急搬送して下さい!』と言った。