033[死にたがりの結果]
モーントが『嫌だ!こんなの駄目だ!』と繰り返す。
グラシュタンが溜息を吐き、フェーブスに耳打ちし、
モーントをフェーブスが担ぎ上げ、馬の姿のグラシュタンに乗り、
グラシュタンが崖を駆け上がって、2人を連れて行ってくれる。
イデアは、自分から閉じ込められた生き物の中で、それを見届け、
大きく溜息を吐き、
麻痺毒で支えるのが辛くなってきた自分の体から力抜いた。
イデアの体は謎の生き物の中で浮き、剣は取り上げられたが、
無抵抗になったイデアの体は、
寝心地の良い揺り篭の様な場所へと収納され、
食べられた者達の様に、溶かされる事は無く、
水霊として、水を集める力だけを引き出される。ただ、それだけで、
何もされたりはしなかった。と言っても…、
体は全く動かない……。瞼を閉じる事も出来ない。
その状態に、体的には苦痛を難事無かったが、
食べられ続けるフルグル国の人、トリタ神軍の軍人を見せられ続け、
「無駄な抵抗すれば、こうなるぞ!」的な感じの脅しを掛けられる。
そんな気にもなる。と…言うか、実際に、そう言う事なのだろう……。
取敢えず、イデアは、
呼び出した生き物にバレない程度の抵抗を試みた結果。
蛇属性の恩恵で、瞳の向く方向は動かせなくても、
瞳の中の水晶体を移動させ、
視線を動かし、大量虐殺を見ないで済む方法を発見した。
「私の目、蛇の目で良かった。」と、
得た視界の中で現実逃避をしていると・・・
イデアは、狭い範囲ではあるが、得る事の出来たその視界の隅に、
アオスブルフ側から戻ってきた前衛だったであろう者達の姿を捉え、
その中にイグニスの姿を発見し、度肝を抜かれ…、
イグニスの方もイデアの姿を見付け表情を固め、立ち止る……。
気の所為かも知れないが、目が合った気がする。
一瞬だけ、呼吸をするのを忘れた。視線が外せなくなった。
「「また、会う事が出来た。」」一気に心拍数が上がり、
「「でも、相手は敵だ!」」と、心臓が締め付けられる様に痛くなる。
そして、イデアの方は……。
兄のメロウや、蛟の加護を持ったままでいるイグニスの姿を凝視し、
「イグニス、痩せたのに逞しくなってるな…、取敢えず元気そう、
最期に一目でも、会う事が出来て良かったかもしれない……。」と、
自分から水霊としての力を垂れ流し、
「イグニスだけは、水霊の加護に守られて、襲われないね。
もう、叶えられる未練は無いよ。」と、自滅する道を先に進める。
イデアを体内に所持する8つの触手を持った生き物は、
力を解放したイデアに対し、大きな地響きを起こす喜びの声を上げて、
自分の体に、分身体の様な同じ生き物を複数生やし、次々に分裂し、
その数を無尽蔵に増やし出す。
イグニスがイデアに駆け寄ろうとして、
グロブスに引き留められているのが、イデアの視界に入る。
イデアにとって、剣の師匠でもあるグロブスにも…、
父ゲムマと、蛟の加護が残っているのが見えた……。
イデアは、グロブスにも危険は無い事を知り、安堵した。
「困ったな、未練がましいよ私!」とイデアはそちらから視線を外す。
食われた者が溶けて行くのが見える真上の消化液を眺めながら
気付けば、その視界にイグニスとグロブスが入って来ない事を祈る。
無意識の内にイデアは、それ以外の事が考えられなくなって行く。
その後、イデアの意識が遠退き、視界が真っ白になってきた頃。
ひんやりした生き物の中では、
感じる事が無い筈の温もりの有るモノにイデアは抱き締められ、
暖かい雨が降る中、暖かいモノに瞼を押さえられ目を閉じらる。
イデアは、それより前に意識を完全に手放していた。
イデアの意識が完全に眠りに落ちる前、
誰かに抱き締められる前から、大きな武力衝突が起こっていた。
モーントを自国の軍の救護隊に預けて直ぐ、
グラシュタンとフェーブスは、イデアを連れ戻す為…、
鞍や手綱を嫌っていたグラシュタンが、馬具を身に付け、
馬としての鎧を馬の姿で着込み。
同じく武装したフェーブスを背中に乗せ、軍隊を率いて、
急いで戻って来ていたのだ。
グラシュタンとフェーブスが戻って来た場所には敵国が、まだ残り、
イデアが何処からともなく召喚した謎の生物と交戦している。
手練れの者しかいないグロブスの部隊は臨戦態勢を維持し、
そうでない者達は、アオスブルフの軍が追って来たと勘違いし、
アオスブルフの軍から追い打ちを掛けられた事が無かった為、
混乱して、逃げようとして、
簡単に、謎の生物の触手の毒の餌食となっている。
攻撃を受け、
更なる本能的な自己増殖のスイッチが入ったままの謎の生物は、
イデアから引き出された水霊の力の所為で、それを止める事が出来ず。
栄養を欲していた為、これまた本能的に、食べ続けている。
謎の生物的に、簡単に捕食できる獲物が増える事は、
大歓迎だったのであろう。喜びの雄叫びらしきものを上げていた。
それを目の当たりにして、怯む自国の兵士達に対して舌打ちをし、
グラシュタンとフェーブスは、そのままイデアの元に走り、
続くアオスブルフの兵士達は、戦い慣れぬ状況に戸惑い、
敵軍同様に食べられていく。
そこでグロブスとイグニスは、
グラシュタンとフェーブスに触手が向かわない事に気付き、
アオスブルフの兵士が食べられるのを見て、やっと、
自分達が感じていた違和感の正体に気付く。
グロブスとイグニスが仲間を庇いながら戦うのを止めると、
触手は完全に、グロブスとイグニスの周囲からいなくなった。
『イデアの影響か…、好意を持ってしまった相手には、
直接、攻撃が出来ないのか?』と、グロブスは少しばかり勘違いし、
『俺や息子を攻撃しないでくれるのは助かるが…、なぁ~、イデアよ、
それでは、俺の弟子失格だぞ……。』と、
イデアの方を見て悲しげに笑う。
妹シナーピの策略に嵌り騙されているイグニスの方は・・・
自分と同じ様に攻撃を受けないフェーブスを発見して、
「アレが今のイデアの大切な人間なのか?」と、
シナーピの策略由来の誤解をして、
「アイツがイデアの心変わりの相手なら、確かめないと」と、
イデア元へ馬に乗って向かうフェーブスを追い掛けた。
彼等は、大量発生する1m程の大きさの謎の生き物に阻まれていたが、
馬の姿のグラシュタン騎乗のフェーブスは、泳ぐ様に押し進み、
先にイデアの元へ辿り着き、
イデアの割と直ぐ近くに居た筈のイグニスは、
みっしり詰まり大口を真上に開けた謎の生き物に邪魔され、遅れて、
その場所に到着する。
そんな到着した場所、本体である謎の生き物の周囲2m程は、
生えて来る仲間の為にか?戦える程の場所が空けてあった。




