027[アオスブルフの温泉街]
元は水霊アルケーで、蛟とは水属性時代からの友人、旧知の仲。
『アタシは…、蛟と一緒に…、
海の底、海洋深層の水の底から陸に来たの……。』と、
泣き出しそうな表情で感慨深く語るカルフェンが、
何故、今、火霊ヘラクレイトスなのか?
現在、土霊クセノパネスの力も有するのか?
もし、カルフェンが語るその話が、総て本当なら…、
何故、現在、水属性、水霊アルケーの力を今、
カルフェンが所有していないのか?が、気になる今、この時……。
イデアは「元、蛟の街の巫女」として、努力して高めた力を使っても、
自分より上位にある者の心が読めない事を残念に思いながら、
「あ、駄目…、もう、無理!
スキンシップの多い人って苦手なんだよね……。」と言う理由から、
そこの所を詳しく、この国の守護竜カルフェンに訊ねる事を諦め、
カルフェンからだけでなく、
途中から加わった双子のスキンシップの多い追加攻撃に音を上げ、
大きく溜息を吐き、目尻に涙をうっすら溜め、
その場から逃げ出す事しか、考えられなくなっていた。
双子のモーントとフェーブスは、滲む涙に気付きつつも、
そんな事に御構い無く、外方を向くイデアに対し、
『もうちょっと、猫の目を見せてよ!』
『減るもんでも無し、こっち向けよ』と言ってイデアの髪を一房掴み、
引っ張り、楽しげに笑う。
「猫でなくて、蛇ですけどね……。」とか、「耐えろ私!」と、
我慢している間、針の様に細くなっていたイデアの瞳孔が、
怒りの頂点に近付き、真ん丸に開いて行く……。
そこでやっと、カルフェンがイデアの不機嫌さに気付いたのか?
イデアの気を逸らせる為、落ち着かせる為に、目隠しをし、
双子が尻餅を突き、転倒する程の力で双子の額を指できつく弾いて、
『坊や達、この娘は、猫ではなく蛇よ!苛めては駄目』と微笑み、
自分の事は棚上げして、
『蛇ってね…、人に触れられる事を好まないし、
個体差あれど、基本、スキンシップが好きな犬や猫と違って、
蛇は、頭や首に触れられるのが特に嫌いな筈よ!
触って可愛がりたいのなら、
一年ぐらい掛けて気長に懐かせていかなきゃ……。』と言い。
『それにしても、相変わらず二人して、馬鹿ねぇ~……。
「目を合わせて」って言うのは、犬でしょ?
猫って、目を合わされるの嫌いじゃなかったかしら?』と、
駄目出しをして、双子を黙らせた。
そして、カルフェンは手をポンッと打ち鳴らし、
『そうだわ……。後宮に行って、この国に来た蛟の街の子等や、
妊婦だった蛟の娘ちゃんが産んだ男の子とかに会ってらっしゃいな。
きっと、もっと、ずっと、
イデアは、アオスブルフのアタシの元に、居たくなる筈よ』と、
イデアが密かに気になっていた自分以外の蛟の街の住人、
他の蛟の末裔のその後の居場所を教え、
そこへの道案内をシュピーゲルと一緒になって「双子」を推薦する。
結果、少し残念な事に他に居なかったので、
その道案内を双子にして貰う事になり、アオスブルフの城の後宮へは、
双子とイデア、グラシュタンの4人で行く事になる。
因みに、双子に案内された「後宮」と呼ばれる場所は、
イデアが思っていたのとは、違った感じの娯楽施設だった。
そこでは、手荷物持ち込み禁止。着る服は指定品オンリー。
何故か、一般公開もされているらしく、入場者は、
身分証明書付きのプリペイドカード的な魔法道具で管理され、
料金を前払い式で、入金しておける魔宝石を首から下げて歩き、
その入金金額内で買い食い&多種多様、色々な無料の温泉に入り、
温泉地の醍醐味を味わい、楽しむ場所となっていた。
イデアは着用義務の水着を選ぶのから困り、
『『上官命令』』と双子が選んだ水着に驚愕し、
モーントが選んだ「無駄にセクシーなモノキニ」と、
フェーブスが選んだ「隠す気が無いレベルのマイクロビキニ」に対し、
『一応訊くけど、冗談ですよね?』と、
兄メロウの力で、何も無い場所から水の斧を作り出し、
反笑いで確認して、双子に提案を取り下げて貰ってから、
意外と「まともなデザインの水着」を選んだグラシュタン推薦、
「白いホルターネックビキニ」を着る事にした。
その後、アオスブルフでの身分証明書にもなっている魔宝石を貰い。
娯楽施設内で羽織る膝まで隠せる上着を選んでいる時、
グラシュタンに『金属は黒く変色するから、
指輪は持ち入らない方が良いのでは?』と、注意されたのだが、
イデアは、どうしても置いて行く事が出来ず、指輪を持ち込み。
唯一、持ち入った私物、2本指輪の内、1本を黒くしてしまい驚き、
少しばかりの後悔を口にし、
脅して提案を取り下げさせられた事を根に持ったのであろう双子に、
意地悪な事を言われて閉口する。
そんなこんなんで、双子が選んだワンピースパーカー、
黒のシースルータイプの物を着込んだ格好で、イデアが、
『騙しましたよね?
こんなの来てるの私だけじゃないですか……。』と、
不機嫌な表情で辿り着いた場所は、温泉の水源であろう場所。
赤毛の女性に母乳を貰う小さな赤子を囲んでいた子供達、
その色素の薄い10人程の集団の一人が、イデアの姿を発見して、
『あっ!』と声を上げ、『イデア様!』と笑顔を見せ、
その中で一番年長であろう少女を中心に、他の子等が集まり、
その年長であろう少女が皆を引き連れ、小走りでイデアに駆け寄り、
数歩手前で立ち止り、跪いて祈りのポーズを9人全員でして、
口々に『『仇を討って欲しい』』と願い出す。
イデアは、幼き日から訓練してきた成果、
強く思った事、念じた事を汲み取る「巫女」として力の所為で、
強過ぎる子供等の気持ちに翻弄され、何も言えなくなり……。
子供等がイデアを神の様に崇める様子を見て、
双子が何かを納得して北叟笑む。
グラシュタンは溜息を吐き、イデアの腕を取り、
軽く引っ張って自分の後ろ手に隠してから、子供等に対し、
『君達!まず、落ち着こうか……。
イデアが、万能の神様ではない事は、理解できるよね?
仇討を願ってる事は分ったけど、取敢えず、僕等に自己紹介して、
ここへ来てからの、今までの近況報告をイデアにしてくれないかな?
イデアは、数時間前に意識を取り戻したばかりなんだ、
弱ってるし、疲れも残っている。
余り大きな負担を掛けると倒れてしまうかもしれない。
理解してもらえるかな?』とイデアを庇い。
気付けば、グラシュタンは、
生き残りの5人少女&幼女達全員を篭絡し、
4人の幼い男の子達に、微妙な具合で睨まれる状況を作っていた。