025[崩れた停戦条約]
目も髪も、鎧の下の服装も黒で統一された「フルグル国」の黒い軍隊、
「雷霆ダエーワ」の手足として動く、「トリタ神の軍」と……。
赤毛と赤黒い瞳の者が多い、鎧の下に赤系の服を着た紅い軍隊、
マグマの池に住む「カルフェン」と言う守護竜を持つ、
「アオスブルフ国の軍隊」が、一時的な停戦協定を結び、
対峙しながらも、互いに一番欲しいモノ得て、分け合う中。
稲光と雷鳴が同時に、世界を支配する。
不自然に、突発的に発生した雷が落ちたのは・・・
蛟の街の巫女「イデア」と言う少女を抱く若者の周辺一帯。
容姿端麗さと耳の特徴から、誰もがエルフだと勘違いする。
人型に化けた水馬「グラシュタン」と…、
アオスブルフの軍隊長「シュピーゲル」が、先程まで、
会話をして居た場所付近だった……。
薬で眠るイデアを抱き上げていたグラシュタンは、
不用意に手を出してしまった「美しい水霊の血族の死者の持ち物」。
元の持ち主「メロウ」と、その土地の地母神「蛟」に寄る。
「イデアを護らせる呪い」に呪われていた宝石の恩恵を受け、
「青いカイヤナイト」の力の影響で強化された「感」と、
自前の「瞬発力」で運良く、雷を避ける事ができ、イデア共々無事。
その事を知らない青年。
鎧の雰囲気から、高い位に位置しているであろう。
トリタ神軍隊長グロブスの息子、イデアの婚約者だったイグニスは、
馬から飛び降り『イデア!』と叫びながら、
必死の様子で、グラシュタンに向かって全速力で走り出す。
アオスブルフの軍隊長シュピーゲルの方も、
大きな雷撃を避ける為に数歩下がり、
後の小さいのは、何かしらの魔法の壁で阻止して無事だった。
隊長の無事を確認した「アオスブルフ国軍」が、戦闘態勢に入り、
シュピーゲルは、濃い赤の赤毛を掻き上げ、
目鼻立ちのはっきりした綺麗な顔に微笑を湛えながら剣を構え、
『攻撃してきた上に、取り分の上前を撥ねるつもりか?』と
イグニスの前に立ちはだかる。
トリタ側が原因で、「空から、地上から放たれた雷」と、
「息子の行動」に慌てたトリタ神軍側の隊長グロブスは、
『今直ぐ、攻撃を仕掛けた巫女を捕らえよ!』と大声で命令を下し、
蛟の呪いに寄って焼け爛れ、もがき苦しむ妻を放置して、
『駄目だ!勝手な行動をするな!馬鹿!』と、
全身で必死に、息子であるイグニスの行動を妨げた。
その頃、厳つ霊の巫女にだけ与えられた雷の魔法攻撃を放った主。
『私は悪くない!』と繰り返し言い続ける少女。
トリタ神軍側の荷馬車の上で、血染めの包帯を纏う「シナーピ」が、
雷霆ダエーワに祈り、魔法が使えぬ様に両腕を広げて、
2人の兵士に押さえ付けられ、一応、それなりに丁寧に、
アオスブルフ国軍の前まで連れ出される。
それはグロブスの娘で、イグニスの妹「シナーピの成れの果て」、
それに気付いたグロブスは『もう、勘弁してくれよ』と呟き、
『悪い!今回のは、俺の監督不行き届きだ……。
コイツは俺の息子で、魔法攻撃を仕掛けた巫女も俺の娘だった。
アオスブルフのシュピーゲル王子、アンタも人の親なら、
多少、理解して貰えるだろ?
今回は、そっちに大した被害も無い訳だし、
俺の腕1本で、情けを掛けちゃ貰えねぇ~かな?』と言い。
『幻滅させるなよ、グロブス!お前の腕を貰っても、面白くない。
俺と互角にやりあえる敵将をココで潰しても、手柄にならねぇ~、
差し出すなら、兄妹1本づつか、
兄に、妹の両腕を肩から切り離させて差し出させろ!
罰は親で無く、本人が担うもんだ、これ以上の譲歩は無い。』
そうシュピーゲル返答された。
選択肢を与えられたグロブスは、迷う事無く。
『イグニス、シナーピの腕を斬り落として持って来い。』と言う。
『そんな事は出来ない。』と言うイグニスに、グロブスは、
『我等が母国「フルグル」と「アオスブルフ」の間には、
停戦条約がある。破ったのはこっちだ。後は察しろよな!
お前には、次期トリタ神軍の隊長の1人としての責任がある。
隻腕では、その役目をこなせないだろ?
それに、この事の発端はシナーピが国王に進言せず行動した結果だ。
一番、責任を取らなければイケナイのはシナーピだ。
それに、お前が大人しくしていれば、ココまでの話にはならなかった。
お前も責任を取らなければならない。』と言い切り、
『それに、今さっきまで、行商の旅に出ていた遠征部隊のメンバーに、
「負傷者を護りながら戦える程の体力が残っている」と、
お前は思っているのか?今、戦う事になれば、部隊は全滅するだろう。
そもそも、俺達の今回の使命は、
シナーピが勝手に連れだした者達を一人でも多く連れ帰る事。
ココまで言えば、理解できるよな?』と言い聞かせる。
イグニスは眉間に深く皺を寄せ、剣を構えてシナーピの前に立つ。
イグニスの様子に気付き、怯えて、
『嘘でしょ?いや!止めて!助けて!!』と泣き叫ぶシナーピ。
そのシナーピの腕を1本、切り落としては死なせない為に治療して、
理不尽さを感じながら2本揃えて、シュピーゲルに引き渡した。
もっと酷い事を厳つ霊側の人間にさせられた者達。
蛟の街の生き残った住民達は、その茶番劇を冷やかに眺め、
アオスブルフ国軍の兵士達も、
蛟の街の住民全部を受け入れる訳にもいかなかった為、
数が減るのを待ち、
ピペルが行った蛟の街の住民の処刑風景を暫く見守っていたので、
感覚がマヒし、何が酷い事なのか?理解できず冷たい目で見ていた。
こうして、アオスブルフ軍に献上された2本セットの腕、
シナーピの魔力を帯びた腕と手は、近い将来、魔術用の道具。
立派な「栄光の手」と、
左は剥がして反転させ、「手袋」になる事だろう。
そんなちょっと怖い現実を余所に、呪いの影響で、かもしれないが、
グラシュタン自ら「護りたい」と思った守護すべき存在。
「イデア」を護り切ったグラシュタンは、豪華な馬車の中で、
暖かい御茶を飲みながら、安堵の吐息を零していた。
グラシュタンは、一度…、
シナーピの雷の魔法でメロウと蛟の呪いに気付き、
驚いて、一瞬、自分に気持ちを疑って動揺したのだが……。
トリタ神軍側の身内処罰の実行中、その呪いに気付き、
妙に好意的になったシュピーゲルが、
『俺はイデアの叔父として、姪っ子を護って行きたいと思っている。
で、俺は、イデアの護衛として、お前を雇いたいと思っているのだが、
どうだろう?割合、高待遇だと思うのだが……。』と、
金欠状態のグラシュタンに、
高収入、地位と住処付きの仕事を紹介してくれた上に、
その暇な時間、互いに腹を割って色々話し、趣味が合う事が分り、
遊ぶ約束までして、グラシュタンは今、イデアの気持ちも確かめず。
順風満帆になった未来に、心躍らせていたりするのだった。