024[変わってしまった運命]
夜風と揺れる草木の音を掻き消す。悲鳴と嗚咽。
立場の逆転で強気になった者達の怒号が場を支配する中。
蛟の祟りの核となったシナーピから、
最初で最後、初めての強い思念がイデアへと流れてきた。
それは、異種族間の交わりに対する嫌悪感と、メロウに対する愛憎。
そこでイデアは、シナーピの心の声から今回の事の真相を知る。
今回起きた出来事の発端を簡単に説明すると・・・
メロウに片思いしていたシナーピが、メロウと結婚する蛟に嫉妬して、
厳つ霊の巫女である事を利用し、雷霆ダエーワからの神託だと偽り、
ダエーワの意向を行使する役割を担う神トリタに、偽の神託を奉納し、
今回、トリタ神軍の下請け傭兵によって、蛟の街を襲わせた……。
と、言う事だった。
「自分からは、好意的な態度を取らずに、
好きな相手に好いて貰えると思っていただなんて……。」とイデアは、
理不尽極まり無いシナーピの思いに苛立ち。
その憤りをイデアが執行した蛟の祟りを伝い、シナーピにぶつける。
シナーピは蛟に祟られた状態で、
「私は間違っていない!メロウ様は私の額にキスしてくれたもの」
「メロウ様は、私に好意を示してくれたわ!」と何度も主張し、
「蛟さえいなければ……。」と、
「アナタがメロウ様を殺さなければ…、」と
蛟が存在しなければ生まれなかった存在を「私のモノだったのに」と、
繰り返し、世迷い言を吐いてくれる。
どうやら、シナーピは・・・
知らずに、メロウをも殺してしまう命令を出していたらしい。
イデアはシナーピに対し、はっきりと、
「私とメー兄は、アナタが嫌って討伐を命じたのより、
重複した3種の異種間交配によって生まれた存在だよ」と告げ、
「シナーピ、アナタは、
自分で仲間に殺す命令を出して、メロウを殺させたんだ」と教え、
何だか空しくなった。
「馬鹿だね、それ以前に、例え、両想いになったとしても、
自分が愛した人を独占する事なんて、出来やしないのに」
イデアは悲し気な表情を一瞬だけ浮かべてから、色々諦め、
シナーピと繋がる思念を断ち切り、
『厳つ霊側の者達を総て滅ぼして下さい』と、
『皆、家族や恋人を殺されてしまいました!仇を討って下さい!』と、
イデアの目の前で、涙を零しながら真剣に希う者達を眺め、
大きな溜息を一つ吐いた。
後、少しで、イグニスと結婚する約束のイデアの18歳の誕生月。
今日は、蛟の街の誕生記念日までも、後、一月も無い日だった。
だが、その結婚の約束は、シナーピ1人の暴挙の為に、
立ち消え、この日を境に、果される事の無い約束となる。
イデアは・・・
『来年には、弟か妹が生まれるわよ』と言った母イデアルに対し、
『結婚諦めて、母上の傍にずっといても良いよ』と言った言葉が、
嘘と思える程に、今を嘆き悲しみ、大粒の涙をポロポロ零し、
イグニスへの気持ちを断ち切る為、
3年程前、15歳のあの時に見たイグニスの事を思い出しながら、
「あの人とは、縁が無かったんだ」と、自分に言い聞かせ、
怒りや憎しみ、憤りよりも、悲しみ、焦燥感に支配され、
崩れ落ちるように座り込んで、竜から人の姿に戻ってしまう。
その様子を目の当たりにしたグラシュタンは、
人としてイデアが流す「その綺麗な涙」に心打たれる。
結婚式を間近に控え、結婚相手の親族に住んでいる街が襲われ、
両親と兄、兄の婚約者である街の地母神を殺されたイデアに対し、
必要以上に同情してしまい。感情に流されるまま、
動揺する信者達を押し退けて、イデアに駆け寄って抱き締めた。
それからグラシュタンは、その水の魔物としての属性から、
「僕は絶対に浮気しちゃうから、恋人にはなってあげられないけど、
この娘を支える保護者役にはなれる筈だ!」と自己判断して、
「そうだ!この娘の死んだお兄ちゃんを運んだ御礼を僕は貰ってない。
御礼として、イデアのお兄ちゃんになる権利を請求しよう!」等、
色々と勝手な事を考え、その結果……。
得た力の反動と、精神的なダメージで弱り、
隙だらけになっているイデアの意識を手持ちの薬で混濁させる。
グラシュタンが思っていた以上に、
その薬は、良い具合にイデアの意識を落として行き、
グラシュタンの腕の中で、安心して眠ってしまったかの様に、
イデアを眠らせた。
グラシュタンは、新しい人脈として確保した相手、
事前に籠絡しておいたイデアが助けた女子供達を利用する。
そして、もう一つ、
メロウの死体のからブルーサファイヤと勘違いして盗んだ宝石。
それは、盗んでもバレナイ状態で、運良く盗めた物を運悪く落とし、
その女子供達に発見され、メロウの持ち物だと気付かれ、
苦し紛れに『遺言と共に預かった』と言ってしまって、
興味本位で見に来ただけのグラシュタンを一度、
窮地に陥れてくれたのだが、此れ幸い。グラシュタンは、
死んだメロウが握り締めていた水属性のカイヤナイトを利用して、
まず、イデアの横に居る為の地盤を盤石にする為に行動する事にする。
皆に藍色の宝石カイヤナイトを見せたグラシュタンは、
『僕の名はグラシュタン。死の淵にあったイデアの兄、
メロウから直接、この宝石を託され、
戦う力の無い僕は、イデアを見守る事を頼まれ、ここへ来た。
だが、辛い目に遭ったイデアを支える筈だった蛟と彼女の両親も、
イデアの目の前で殺されてしまった。
だから僕は、メロウの最期の願いを叶える為、
これからも「イデアを支え、見守って行きたい」と思っている。
その為に、皆に力を貸して欲しい』と尤もらしい事を言って、
優しくイデアを抱き上げた。
丁度その時・・・
グロブス率いるトリタ神軍遠征部隊でもある行商団と、
イデアの婚約者であったイグニスを含む一行が、自国フルグルへ戻り、
ダエーワの神託の話を聴いて、蛟の街に駆け付け、シナーピを保護し、
シナーピが自分の都合の良い様に改竄した話を聴いて、
先程まで竜の姿が見えていた場所へと近付いていた。
それと同時に・・・
厳つ霊の者達に攻め入られ、蛟が藁にも縋る思いで、
火霊ヘラクレイトスを信仰する東の地域にある国、
「アオスブルフ」に助けを求めた為に、そちらの軍も、
先程まで竜の姿が見えていた場所へと近付いていた。
突然やって来た黒いトリタ神軍と、
紅いアオスブルフの軍は、不気味な程、静かに、
グラシュタン達の目の前で対峙し、互いの代表者だけで先に話し合い。
イデアを抱き上げるグラシュタンの方へとやって来る。
トリタからは、騎乗し武装したグロブス。
アオスブルフからも、騎乗し武装した男が1人、白い小さな蛇を連れ、
グラシュタンの前にやって来た。
グロブスはグラシュタン達の奥、神殿の前にピペルを発見し、
眉を顰めながら、『蛟の街の者達を好きに連れて行くと良い』と言い。
アオスブルフ側の男は、白い小さな蛇を人型の蛟に変えて見せ、
薄れ消え行く蛟の姿越しに、
『蛟からの救援要請にて参上した。一緒に来るが良い。』と言って、
蛟の街の住人達を荷馬車へと誘導し、グラシュタンに向かって、
『その娘は、我が同胞でもある。引き渡して貰おう』と言った。




