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君と・・し合いたい  作者: 上木 MOKA
第二章[運命の不協和音]
23/39

023[蛟の街の死 3]

イデアは湖の場所で死んでいた身内や蛟の街の者達の埋葬を終え、

怒りで力を暴走させぬ様にして、蛟の街へと戻って来た。


街でも稲光と雷鳴が轟いていた。

街の上には雷雲。街は何か所も故意に放火されたかの様に燃え、

石畳みの上には、幾つもの死体に電気が血管を通り広がった痕。

厳つ霊の巫女の仕業であろう。

シダ植物の葉模様にも見えるリヒテンベルク図形が、

皮膚の上に爛れ残る遺体が転がっている。


イデアは父方から受け継ぎ、蛟から贈呈された「水霊の力」。

兄「メロウの水霊としての力」を行使して、

通常攻撃は勿論、電気を通さない純水の盾と鎧を作り。

母方から受け継ぎ、母と兄から貰って来た「火霊の力」と、

街中で燃える炎の力を回収し、

暗くなって来た街中で小さな鬼火を幾つも作り、光で敵を誘き出し、

襲ってくる者と戦い、

自分は無傷の状態で、相手を半死半生へと処理する。


そして、水霊の加護の力を受けた者もその遺体の位置も、

今のイデアには、蛟の力で場所が分るので、

住民の遺体は全て火葬し灰にし、

悲鳴を耳にしては、生きている住民を助けに向かい。

女子供に悪戯する厳つ霊の男達を発見する度に、血の雨を降らせ、

イデアとイグニスの婚約を知る厳つ霊の者から、

『これは当たり前の事だ!』『イグニスも同じ事をしてきた』と、

耳にし、厳つ霊の男達に幻滅しながら、

街中に居た厳つ霊側の者の死体を複数残し歩いた。


そうこうして、蛟の街を通り抜けた先、蛟の神殿の前まで来ると、

グロブスの妻で、イグニスとシナーピの母でもあるピペルが、

蛟の街から集めた者達の中から、

蛟の崇拝者を狩り出すゲームに興じているのが見て分る。


水の無くなった湖に、蛟の街の住人で作った死体の山が出来ていた。

死体も、死体を運ぶのも、蛟の街の住人で、

死体になる者を選ぶのも、選ばれるのも、蛟の街の住人だった。

選ばれた者を縛るのも蛟の街の住人で、殺すのも蛟の街の住人。

ピペルの号令で殺せなかった蛟の住人は、

殺されそびれた蛟の街の住人と役割を交代して、ピペルの号令で、

厳つ霊の巫女の落とす雷に寄って殺される。


イデアは、完全に怒りに支配されない様に注意しながら、

「何故、こんな事をしているのか?」その理由が知りたくて、

厳つ霊の宴の席に近付いて行った。


その頃、周囲は本当に暗くなり、夜になっていた。

厳つ霊側の者は先入観から、

鬼火の光を蛟の街に残っていたメンバーが持つ「松明」と勘違いする。


そして運の悪い事に、イデアに向かって、

『首尾はどうだった?隠れてた女子供を食って来たんだろ?』と、

何の為に、厳つ霊の者達が蛟の街に残っていたのかを伝えてしまった。


イデアの中に生まれていた疑心が、信じられない程に大きく育った。

蛟から貰った緑褐色なモルダバイトのペンダントが、

イデアの心を護る為に癒してくれはしていたが、

蛟の友人、風霊アナクシメネスの癒しの力を持ったモルダバイトでも、

イデアの心を完全には、守れなかったが…、イデアを冷静にし、

イデアの心を冷やし固める事は出来た。


イデアは鬼火の炎を大きく燃え上がらせ、自らの姿を晒し、

ピペルに向かい。蛇の瞳で見詰めて、

『アナタ方の所為で、蛟様だけでなく、私の両親と兄も死にました。

何故、こんな事をするのですか?』と問い掛ける。


ピペルは、一瞬だけ躊躇したが、さも当たり前の様に、

『人間と人間以外の者が恋中になった時点で罪だわ!

それを祝福した者も同罪よ!罰せられて当然でしょ?

罪人達は、我々に無条件降伏して殺されるべきなのよ!』と言う。

イデアは、そんな彼女の御蔭で、立派な祟り神へと転身する力を得た。


イデアは『あはは』と乾いた笑いを漏らし、蛟の声で、

『愚かしい…何て愚かしいんだろうね……。何様だ?お前!

1000年以上前から続く、私達の許された営みを愚弄するとか、

神にでもなったつもりか?そもそも、厳つ霊の巫女も、

人間以外の血が流れていてこそ、雷の魔法を使えると言うのに!

おや?知らなかったのかい?あのさぁ~、無知も罪だよ』と言って、

人であった姿を大きく変える。


イデアの肌は、蛟の真珠の様な光沢をもった白い鱗の覆われ、

母方の血の御蔭で、マグマの中に住む細長い竜の姿になり、

鬣は、ストロベリーブロンドで、瞳は朱色の混じるワインレッド。

但し今は、蛇の瞳が暗く瞳孔を開き、奥深さの有る闇色になっている。


イデアの姿が消え、

突然出現した竜に、その場に居た者達、総ての顔が青褪めた。

蛟の力を贈与され、祟り神になったイデアの影響を受け、遠くから、

先に蛟の呪いをかけられ、祟りを体験中の厳つ霊の巫女達の悲鳴が、

途切れる事無く聞こえ出す。


その時、イデアが助け歩いた女子供達や、

存在を把握し、隠れているのを知りながらも、イデアが放置した者達。

その街に残っていた住民達から話を聴き、

イデアの婚約者が、今、敵である厳つ霊の者だと言う事を聞いた上で、

イデアの様子を少し離れて見守っていたグラシュタンは、

その者達と一緒にイデアを見上げ、驚いていた。


イデアは、

蛟から受け継いだ力とモルダバイトの癒しの力で魔物に落ちず、

その代わりに「蛟の祟り神」となってしまっていた。

イデアの最初の信者達は・・・

死んだ蛟の街で、イデアが救って歩いた女達と子供達。

隠れ、息を潜めていた蛟の街の住民達となる。


その最初の「蛟の祟り神」の信者達は、

イデアの近くまで走り寄ると、

『イデア様、皆の仇を討って下さい!こいつ等に、

死より強い苦しみを奴等に与えて下さい!』と叫んで願い。祈る。


その「願いと祈り」を耳にしたイデアは一瞬、信者達の方に目を向け、

『その願い。蛟様の祟りの執行に上乗せしておきます。』と、

皆に届く様に囁いて、微笑んでから、

『ねぇ~?ピペルおばさん、厳つ霊の崇拝者の皆さん。

人と神が両想いになって、誰に迷惑を掛けたと言うんですか?

自分達が受け入れられない恋愛だからと、罰するなんて

酷い事だとは思いませんか?

その2人の幸せを祝福する事が、本当に罪だったのか?

あなた方が罰した者達に、どんな罪があったか教えて下さい。

そして、その者達は、本当に無抵抗で殺されるべきでしたか?

身内を殺されたくなくて、自分が死にたくなくて

抵抗し、応戦する事は、許されない事でしょうか?

もし、その立場に自分が居たら、大人しく殺されますか?

大人しく大切な者達が殺されるのを見守れますか?無理ですよね?

だから、蛟様からの返しを御持ちしました。受け取って下さい。』


イデアは蛟から預かった。

触れると焼け爛れる蛟の祟りを含んだ水をその場、

目の前に居る厳つ霊側の者達に向けて総て送り出し、

その者達の頭から足先まで、

利き手・利き足の方の左右どちらか半分を元に戻らないレベルで焼き、

大火傷させ、死なない様に、その酷い状態で維持させた。


その場に痛みと恐怖に寄る悲鳴と、助かった事を喜ぶ奇声が響く、

厳つ霊側の者達はのた打ち回り、蛟側の者達は涙を流し喜び、

竜と化したイデアに駆け寄り、皆が皆、細長い白い竜に平伏し、

更なる願い『厳つ霊側の者達を総て滅ぼして下さい』と言い出した。

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