番外編 青年は烈火の様に3
「エルンスト、どうして―」
「リリーナ、少し黙っていろ」
―そう言って、私の顔に触れ唇に落とすキスはとても甘くて熱かった。
周りの生徒はこの光景を見て騒いでいるがされた本人としてはもう死んでしまいたいぐらい恥ずかしい。
こうしてエルンストの望み通り私は恥ずかしさのあまり黙りこくってしまったのだ。
「…見せ付けてくれるねエルンスト王子」
「恋人同士の当たり前のコトだろう?」
瞬間、ふたりの間に火花が散る
「えらく大層な礼儀だな、王子様?」
「お前のような輩にそう言われるとは嬉しいもんだね」
交わす言葉は少なくともトゲはたっぷりである。
例の彼の方は今にもエルンストに飛びかかりそうな感じでありエルンストはエルンストで何を考えているかわからない。
「この女王様のリードを引っ張ってんのがアンタだってんなら、よくつないでろ。ほかの男に吠えかかる前にな」
「身にならない忠告、ごくろうだな」
…あぁ神様、嘘だといってください。
私だって自分の行動がこんな次期国王陛下と次期公爵閣下の亀裂がはいるようなことになるだなんて思ってもいなかったんです。
十分前に戻れたら全力で自分を止めていたはずだ。
例の彼は段々と相手が不利だとわかったのか、めんどくさいとわかったのかは知らないが怒りが収まってきたらしい。エルンストは、もう、本当に何を考えているのかわからないほど無表情だ。
「じゃ、女王様。最後に挨拶だけしとこうか、俺の名前はアルヴァー・ニルス・バルテルス。適当に呼んでくれ」
「私の名は―」
挨拶を返そうとする私をエルンストは何も移さない瞳で制してくる。
だが、いくらなんでも名乗り返さないのは礼儀に反するしなによりこのままじゃずっと女王様呼びだ。
私はわざと、心の中では謝り倒していたけど、エルンストを無視して名乗り返す。
「私の名は、リリーナ・エル・ローレル。貴方の一つ上の三年生よ。私も気軽に呼んで頂戴」
「…リリーナか、いい名前だな」
まさかのいきなり呼び捨て。
しかし段々この男、いえアルヴァー・ニルス・バルテルスの性格が掴めてきたので何も痛いことはなかった。
「じゃ、和解とこれからの証で握手でもしようぜ」
「ええいいわよ」
なかなかアルヴァーにもいいところが――
はむ
―言葉にするならそんな感じ。
私の手を握ったと思ったら一気に手元に手繰り寄せて…耳を甘噛みされていた。
「な、な、なぁーーー!?」
「―この屑を叩き斬るッ!」
バカみたいな反応をしている私と王族のみ許された剣帯を解き剣を抜くエルンスト
それを驚きの瞬発力でかわしながら逃げていくアルヴァー。
ヘたり込んでしまった私に瞬時近寄ってきたエルナラとキャシーが質問攻めをし、いつの間にか現れたフェーゼは大笑いしながら怒り狂うエルンストを見ている。
私は、そのどうしようもなく収拾がつかない事態に呆然とするしかないのだった。
これが長い腐れ縁となるアルヴァー・ニルス・バルテルスとの初対面で初めてエルンストからのお仕置きという名の怒りを受けた事件である。