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14章(2)

会議は康之の鶴の一声で終了した。議題から削除したにも関わらず、

最後は浩二の後任について議論が交わされたのだ。散々揉めていたのだが、

最終決定は康之に委ねられたのだ。浩二は会議後直ぐに副社長部屋に向かった。

横田と恵美に報告するためだ。横田と恵美にも会議の議題は知らせれていて、

二人は不安な面持ちで待っていた。

「どうなりましたか」

浩二の顔を見るなり、横田が詰め寄った。

「とりあえずは私が兼任します。もちろん兄が元気に復帰すれば、この椅子は返します」

「そうですか」

横田は安堵の表情を浮かべた。内心では社長派に押し切られるのではと、思っていたからだ。

「ただし、私も兼任する以上、忙しいくなることには避けられません。そこでお二人にはもっと働いていただくことになります。構いませんか」

浩二は、真剣な眼差しを横田に向けた。横田は一瞬考えて浩二に尋ねた。

「本当のことをおっしゃって下さい。副社長は元気に戻られますか」

横田は浩一に心底忠誠を誓っているようだった。

「間違いありません。兄は必ず復帰します。それまで、兄の為にも私を補佐して下さい」

浩二は戸惑うことなく頭を下げた。

「わかりました。貴方にも今ここで、忠誠を誓います。何なりと申し付けて下さい」

横田は浩二よりも深く頭を下げた。恵美も遅れながらも浩二に頭を下げた。

「では、これからはここでの仕事が主になりますが、専務としての仕事もあります。

今の秘書を首にも出来ません。一緒でも構いませんか」

浩二は横田に尋ねた。と言うのも、横田という男はどちらかと言えば一匹狼なのだ。

仕事が出来る分、共同作業は出来ない性分だった。

恵美だけは会長の意向から教育を受け持ったが、浩二の秘書とは馬が合わなかった。

しかし横田は色よい返事を返した。

「副社長のためです。構いません」

「わかりました。では横田さんには私の第一秘書になっていただきます。

私の今の秘書を第二秘書にします。そして恵美さん。恵美さんには兄の第一秘書になってもらいます」

恵美も横田もその言葉に即座に反応した。それは浩二にも予期していたことで、

口を開こうとした二人を押さえ話を続けた。

「もちろん兄が復帰するまでですが、兄の仕事は兄が一番良く知っています。

そして私は今以上に忙しくなるでしょう。恵美さんには私と兄との連絡役をお願いします。

緊急でわからないことが有っても直ぐに対処できる体勢を取ってほしいのです。

わかりますね」

浩二の瞳には絶対的な信頼と強い信念が窺えた。

「わかりました。私で出来ることは全力でぶつかっていきます」

恵美の返事も力強いものだった。早速浩二は部屋の模様替えを行った。

横田としては守り通したものが崩れる気持ちがあったが、

浩一副社長のためと思い素直に指示に従った。

浩二はとにかくここで福社長と専務の仕事をこなさなくてはならない。

一つ間違えば再度、専務の席を巡っての議論が繰り広げられるだろう。

それだけはどうしても避けたかった。今浩二の最優先事業は、

恵美の元務めた会社との提携プロジェクト、浩一が担当していた外資系企業との技術提携、

その他諸々の諸事業及び情報収集などである。

そこでまずは浩二は、専務の仕事の提携プロジェクトに力を注いだ。

もちろんその間は恵美の協力も欠かせない。なんと言っても恵美の元、勤め先だからだ。

しかしその前に、ジュンの付き添い期限も終わってしまう。浩二はジュンに連絡を入れた。

「どうにかあと2週間付き添ってもらえないか」

「……無理よ。私だって辛いの」

ジュンの返事に浩二は何も言えなかった。恵美はこの時かなり浩一からの信頼を勝ち取り、

付き添っても問題がないところまで信用は得ていた。

しかし恵美も自分が付き添う気でいたが、浩二の状況を考えると、

浩一のためにも付き添う以上の重要な役割を果たさなくてはと思ったのだ。

浩一が元気になるためにも戻るポストは何が何でも守る必要があった。

もしもそれが無くなったしまえば、人一倍情熱家の浩一の気力が失せてしまうのは、

非を見るよりも明かだった。恵美は自らもジュンに頼みに向かった。

「でも、恵美さん。本当に良いの」

ジュンは呆れた様子で恵美を見た。

「ええ、どうしても浩一さんのポストを守りたいんです」

「でも、浩一さんは恋人が私でないのを気が付いたわ。今なら思い出すチャンスじゃないの」

「ええ、わかります。でも、私だとわかっても、戻る仕事が無ければ、浩一さんはなんと思うかしら。やる気を起こしてくれないかもしれない。戻る仕事があれば浩一さんは奇跡を起こしてくれると信じているの」

「恵美さん……」

ジュンは恵美の考えを覆すほどの言葉が見つけられなかった。

同時にジュンはこの二人の為には、どんな犠牲もいとわない覚悟を決めたのだ。

「わかったわ。私、はっきりと夜の仕事を辞めます。戻るところが有ると思うから迷うのね。今から、私を手足のように使っていいわ」

ジュンもまた恵美でも気持ちを覆せないほどの言葉を放った。

恵美とジュンは互いに目に見えぬ絆があることを、心の奥底でしっかりと確認し合っていた。病室に戻ると浩一は恵美を快く迎えた。恵美は今日の役員会議の結果を伝えた。

「そうか…浩二が……」

「それによって、横田さんが第一秘書になりました。私が貴方の唯一の秘書です。

全ては私に言うなり指示を出してください」

恵美はあくまで事務的態度を崩さなかった。

「わかった。とりあえずは、進行中の議題はわかっているね。浩二に至急届けてほしい」

「わかりました、この書類ですね」

恵美が枕もとの書類を持ち上げた時、浩一は軽い目眩を起こした。

それは電灯の光の影になった恵美の横顔が、脳裏のどこかにあるように感じたのだ。

「恵美君……」

「はい?」灯りに照らされた恵美の顔をしばらく見つめてから、浩一は何度か首を振った。

「いや、なんでもない。じゃあ、頼んだよ」

そうして病室から出て行く恵美の後ろ姿を目で追ったが、浩一の中では、

はっきりとした答えは浮かんで来なかった。しかし訪れるであろうと思われた頭痛は、

その後浩一を苦しめることは無かった。不思議と心は安らぎに包まれていたからだ。


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