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1章(4)

 恵美は銀座が初めてだった。銀座のイメージは、金持ち、重役、年配。そう思っていたのだ。自分とはかけ離れた場所と思っていた。ところが、車の窓から見た通りには、若そうなサラリーマンも多くいた。浩二だってまだ若い。そう見えるだけかも知れないが、若き重役は多くいるのだ。それに、立ち並ぶビルの看板とは違って、安そうな店もかなりありそうだった。浩二から銀座でと言われたときには幾分緊張したが、店の多さを除けば、ほかの街とは大して変わりはしなかった。浩二が連れて行ったのは、小料理屋風の店だった。恵美はいつの間にかこの浩二から、新、とつけるのを止めていた。それには驚いたが、旧浩二には、未練さえないどころか存在さえ忘れていた。

「いらっしゃいませ」品のよい女性が二人を出迎えてくれた。浩二はここの経営者だと紹介してくれた。若そうだが、銀座で店を開くほどだ、それなりの貫禄さえ窺えた。

「まだかな」浩二は、店内を見回した。狭い店内には、カウンターとテーブルが3つしかなかった。その割には、カウンター内には、多くの板前が揃っていて、恵美に笑顔を向けていた。

「まだ、お見えでないですね。席は用意してあります。どうぞ」女性は先に立って歩き出した。案内も何も・・、と思っていると、店の奥には個室が用意されていた。個室は10部屋はあろうか、恵美は驚いた。あの若さで、すごい。やはり、よく言うパトロンでもいるのかとさえ思った。

「彼女は、京都で老舗の料亭の娘です。次女だから東京に進出したんです。でも、やり手には違いないね。何飲みますか。来るまで一杯やっていましょう」恵美はビールを頼んだ。

「じゃあ、ちょっとつまみも注文しますか」浩二に差し出されたメニューに、恵美はまたも驚きの声を上げそうになった。値段がついていないのだ。恵美には初体験だった。一体いくらで食事ができるのか、想像すらつかなかった。恵美は黙ってメニューを返した。

「お任せします」

「そうですか。嫌いなものはありますか」恵美は小さく首を振った。

「じゃあ、適当に頼みますね。あとで、食事も出るから少しにしましょう」浩二はビールと2品ほどを頼んだが、恵美にはきいたこともない料理名だった。恵美はお酒が嫌いではなかった。どちらかと言えば、好きな部類に入るだろう。酒飲みの父の影響で、学生時代から父に付き合い晩約をしていた。ビールは程よく冷えていた。料理は驚くほどに美味しかった。いくらでもお酒が進みそうだと思った。

「あの、誰がいらっしゃるのですか」恵美は恐る恐る尋ねた。心境としては本当に恐ろしかったのだ。プロジェクトの件もある。下手をしたら、一緒に仕事をするかも知れないのだ。それよりも恐ろしいのは、浩二の家族に会うことだった。ところが、浩二の答えはその恐ろしい答えだったのだ。

「ちょっと、兄弟に会ってほしいのです。実は・・・」その時その兄弟らしき人物が現れた。恵美は咄嗟に下を向き、黙って震えていた。なぜ、震えるのかわからなかったが、身体が自然と震えてしまったのだ。浩二の兄弟は何も言わない。慌てて浩二が座るようにいった。

「これは、僕の兄です」ほら来た。恵美は軽率な行動を悔やんだ。部長や専務にあんなこと言われなければ、食事の誘いも丁重に断われたはずだと思った。

「こ、こんにちは」やけに自信無さそうに浩二の兄は答えた。恵美は仕方無しに顔を上げ、兄に挨拶をしようとした。ところが、恵美は口を開けたまま固まってしまった。なぜならば、そこに座っているのは浩二だった。伏せ目がちに落ち着きなく座っているが、浩二、いや浩二と瓜二つだったのだ。

「兄の、浩一です。もう、わかりましたか。ぶつかって怪我をさせたのは、兄なんです」いきなり頭を床につけ、浩一は謝った。

「すいませんでした」恵美はポカ〜ンと、口をあけていた。

「無理もないですね。実は兄は女性に前だとまるっきり話せなくなってしまうのです。そこで私が代わりに伺ったのです。でも、どうしても謝りたいというので、ここに来て頂いたのです」どうりで、最初の印象と違うわけだと恵美も納得した。

「いいんです。お気になさらないでください」恵美は優しく声をかけた。

「ほら、兄さん。いい人だろ。顔を上げなよ」浩二に言われて、浩一は顔を上げた。そして名刺を差し出し、もう一度頭を下げた。名刺には、取締役副社長の文字が、燦然と輝いていた。

「でも、定期には・・・」恵美が疑問を口にすると、浩二が答えた。

「キセルですよ。子供の頃から、二人でよくやってました。遊びですよ。双子の特権ですね」浩二は大きく笑った。浩一も笑ったが、緊張した面持ちは変わりはしなかった。恵美は、トンでもない事になったぞと、内心思ったが、反面二人に俄然興味がわいてきた。どちらも美男子で、重役。しかも独身らしかった。薬指のチェックを、恵美はしっかりとしていた。指輪のあとらしきものは、二人の指ともなかった。

初めて双子とわかった恵美。このあと恵美を取り巻き様々な出来事が起こっていくのである。

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