使徒との再戦──反撃の狼煙を上げる
フィリアスの身体は満身創痍だった。深い傷、荒い呼吸、かすかに動く指。だが、まだ死んじゃいない。
「……フィリアス、お前はしばらく寝てろ。」
俺はそう言い捨て、一歩前に出た。
影が足元から滲み出し、蠢く。俺に纏わりつきながら形を変え、牙を剥く猛獣のように揺らいでいた。
「お前ごときが“影の王”を名乗るか。」
神の使徒が不敵に笑う。
「影は畏れるものだ。人の身でありながら、それを支配できるはずがない。」
「……黙れ。」
影が螺旋を描きながら収束し、拳に纏わりつく。俺はそのまま前へ踏み込み、拳を振るった。
──が、当たらない。
神の使徒は紙一重でかわし、すぐさま拳を突き出してくる。
「遅い。」
轟、と空気が震えた。光が弾け、俺の視界を焼く。
反射的に影を盾にするが、次の瞬間、凄まじい衝撃が襲いかかった。
「……ッ!」
身体が吹き飛び、地面に叩きつけられる。肺の空気が絞り出され、視界が滲む。
立て直す間もなく、神の使徒が間合いを詰めてくる。
「影を操ろうが、所詮は人間の身……お前の力では、この私には届かん。」
「……チッ。」
二人の使徒が互いに向き合い、無言でその距離を縮めていく。
その瞬間、空気がピンと張りつめた。
「……やるぞ」
一人の使徒が低く呟くと、もう一人は頷き、静かに言葉を続けた。
「1人に戻るの……?ほんと早なんだけどなぁ」
その言葉が合図となり、二人の体が微細に震え、やがて一つの点に収束していく。
その光景は異様で、まるで二つの存在が一つに吸収されていくかのようだった。
体が膨張し、光と闇が混ざり合う。
そして、二人の使徒は合体し、一体の存在へと変貌した。
その姿はまさに神の使徒という名にふさわしいものだった。
──異形の存在が現れた。
元々の二人の容姿はほとんど失われ、代わりに巨大な光の翼を持つ巨大な人型の影が浮かび上がる。
その背中から伸びる翼は、無数の剣のような光の刃が羽ばたくたびに、周囲の空間を切り裂くかのように揺れる。
そして、その足元には暗黒の気配が広がり、空気そのものが歪み、震え始める。
その姿は、もはや神のような威圧感を放ち、全てを支配するかのような存在感を漂わせていた。
「これが、真の力だ」
合体した使徒の声は、二つの声が重なり合い、低く響き渡る。
その言葉はただの言葉ではなく、まるでその力を示す宣言のように、辺りの空間に圧倒的な威圧を与えた。
その視線がこちらを貫くと、まるで時間が止まったかのように感じられる。
「貴様らはここで終わりだ」
使徒の言葉と同時に、空間が一気に歪み、異様な圧力が一気に押し寄せる。
その一瞬のうちに、周囲の風景が反転し、音も、光も、全てが使徒の力に飲み込まれていった。
その存在そのものが、この場を支配しているかのように感じられる。
「ああ、これが“神の力”か……」
俺は、その強大な力に圧倒されそうになる、そして歯を食いしばる。俺一人じゃ、この相手に勝てる可能性はほぼゼロだ。
だが──
「レオンとオリビアを助ければ、状況は変わる。」
決意とともに、俺の影が一気に広がり始めた。
影を操り、俺はレオンとオリビアの元へと向かう。
レオンは鎖で縛られ、オリビアは魔力封じの結界の中に閉じ込められていた。
「リュート……!」
オリビアが驚き混じりの声を上げるが、俺は無言で影を操作し、鎖を断ち切る。
「遅ぇぞ、リュート!」
自由になったレオンがすぐさま拳を握りしめ、雷を纏わせる。
「状況は?」
「最悪だ。」
俺は短く答え、オリビアの封印を解くために影を伸ばす。
「この結界、普通に破れるか?」
「やってみる。」
影が結界の表面に触れる。まるで水面に落ちたインクのように黒が広がり、結界の一部がゆっくりと浸食されていく。
「……いける。」
力を込めると、結界が砕け散る。
「助かった!」
オリビアが結界から解放されると、すぐにフィリアスの元へと駆け寄った。
「オリビア、フィリアスを頼む。レオン、時間を稼ぐぞ。」
「おうよ!」
俺とレオンで神の使徒へと向かう。
雷撃を纏ったレオンが神の使徒へ殴りかかる。
轟、と雷が弾けた。
だが──
「ふむ。」
神の使徒はわずかに手をかざすだけで、雷撃を受け流した。
「そんな……!」
レオンが驚愕する間に、神の使徒のカウンターが炸裂する。
「ぐっ……!」
レオンの身体が弾き飛ばされ、地面を転がった。
俺も影を操り、神の使徒の足元を狙う。しかし──
「無駄だ。」
神の使徒は軽く指を振るうだけで、俺の影を切り裂いた。
「……チッ、こいつ、どこまで強いんだ。」
焦りが胸を締め付ける。
「オリビア、フィリアスの回復はまだか!?」
レオンが叫ぶ。
「外傷だけじゃなく、内部も酷いダメージなの……まだ時間がかかる!」
オリビアが必死に治療を続けているのが見えた。
「……もう終わりだな。」
神の使徒が静かに宣告する。
その瞬間、俺は決断した。
「影への認識を覆せ……!」
影が一気に膨れ上がり、俺の身体を包み込んでいく。
「お前が“影の王”になれるはずがない……!」
神の使徒の声が震えていた。
「そんなことはどうでもいい……俺は、俺の意志で影を支配する!」
俺は叫び、再び神の使徒へと突っ込んでいった。
影が膨れ上がり、俺の身体を包み込む。
神の使徒が目を細めた。
「……その力、さっきより強くなっているな。」
「当然だ。」
俺の声が影に混じり、重く響く。影の刃が腕に絡みつき、形を変えながら脈動していた。
「時間を稼げばいい……オリビアがフィリアスを治療し終えるまで、俺が持ちこたえる。」
そう思った瞬間、神の使徒の姿が消えた。
「……っ!」
横から強烈な衝撃。咄嗟に影を盾にするが、簡単に打ち破られ、身体が吹き飛ばされる。
「お前の影は強くなったが、まだ私には届かん。」
神の使徒は余裕の表情を崩さない。
だが、俺はその隙を突いた。
「届かないなら、包めばいい。」
影が地面を這い、神の使徒の足元へと絡みつく。瞬間、影が爆発した。
──闇の中、鈍い光が弾ける。
「……ほう。」
神の使徒が笑った。
「悪くない。だが──」
その言葉と同時に、俺の影はあっさりと切り裂かれた。
「……チッ。」
まだ足りない。俺の力は確かに強くなったが、それでも決定打にはならない。
時間を稼ぐしかない。
俺は影を操り、瞬時に神の使徒との間合いを詰める。拳を振るい、影の刃を飛ばし、全力で攻撃を仕掛けた。
しかし──
「無駄だ。」
神の使徒は淡々と攻撃をいなし、俺を消耗させていく。
「持ちこたえろ……フィリアスが目を覚ますまで……!」
視界の端で、オリビアが必死に魔力を注いでいるのが見えた。
そして──
「……お前ら、ずいぶん無茶してくれたな。」
聞き慣れた声が響いた。
全身に力が漲るような感覚。レオンが振り返り、思わず叫ぶ。
「もっと早く起きてくれよ、マジで!」
オリビアが安堵の表情を浮かべながら、
「フィリアス、後はお願い……!」と頼む。
フィリアスはゆっくりと立ち上がり、前へと歩み出た。
風が舞い始める。
「さて、ここから反撃といくか。」




