自分の知らない自分
第八十三話
「そこからは早かったな。」
俺はラビリンスに自分の生い立ちを話した。
自分で自分のことを話すのはなんだか不思議な感じだ。
自分のことのはずなのに、どこか他人事のようにも思えてくる。
なにはともあれ、俺は要点を簡潔に伝えることに成功した。
そしてこれから話す内容は、比較的に記憶に新しい出来事である。
異世界に召喚された後の事だ。
「──そのあとはいろんな冒険を超えて今に至る。」
こんな感じでいいか?と言った風にラビリンスに視線を送る。
俺はこれまでの冒険を思い出せる限りラビリンスに話した。
それを感じ取ったのか、コクリとうなずくラビリンスだった。
【なるほどね、つまり君の今までの行動原理には、”後悔のない選択”と”好奇心”があるんだね?】
確認するように問うラビリンス。
「改めて言語化されると不思議な感じだが、そうなんじゃないか?これまでは”冒険”とか”ワクワク”なんて曖昧な言葉で表してたけどな。」
【うん!面白い!】
何かに納得したラビリンスが満足げに手を叩く。
果たして俺は試練に受かったのだろうか?
「これで終わりでいいのか?」
俺は試練がやっと終わったことに安堵する。
【いや、確かに満足はいったけど、君にはさらに興味が湧いてきちゃった。】
「はぁ?」
【悪いけど、もう少しだけ付き合ってもらうよ。】
「そんなのありかよ!俺だけ追試みたいじゃねぇか!」
【あはは悪いね。でもその分試練を終えたあかつきには、すごーく良い物をあげるから、それでいいかな?】
「どうせ断れないんだろ?いいよ、それで。」
しぶしぶ納得するユキマル。
そしてラビリンスは次の試練を出したのだった。
・・・・
・・
ラビリンスが指を鳴らすと、周りの景観が変化した。
今度は壁一面が鏡で覆われている。
そして気が付くとラビリンスの姿が消えていた。
【次の試練は君の”これから”についてだよ。】
空間に声が響き渡る。
間違いなくラビリンスが話しかけてきている。
「これから?未来予知みたいなことか?」
【う~ん、それとは少し違うかな。今からすることは、この壁一面に張られた『真理の魔鏡』を使って、君の”本質”を見るのさ。】
「本質....?」
【そうそう。そして、そこから君の未来について考察する感じかな。まあ百聞は一見にしかず。とりあえず『真理の魔鏡』の前に立ってみなよ。】
俺はラビリンスに言われた通り、鏡の手前まで近づいた。
「......ん?」
確かに先ほどまでは普通の鏡だったはずだ。
しかし、ある程度の距離まで近づくと、俺の姿は消えた。
その代わり何やら光る球体のようなものが俺の立つ位置に現れる。
その物体は三色ほどで構成されており、それぞれが複雑に混ざり合っている。
【やっぱ君は面白いね!こんな形状見たことがないよ!】
やけに高揚した口調でラビリンスが言う。
「それで?これから何が分かるんだ?」
【そうだね、いろいろと分かることはあるけど、全部を伝える気はないかな。とりあえず試練はこれで終わり!】
「えぇ?!」
突然の試験終了の合図にびっくりする。
これが期末試験とかだったら抗議ものだ。
「せめて少しくらい教えてろよ!」
【そうだなぁ、じゃあ、君は自分の力に気を付けた方がいい。】
「.....?!過信しすぎるなってことか?」
【いや、むしろ逆だね。君は強すぎる。その力の扱いには十分気を付けた方がいいよ。】
「.......わかった。」
正直、ラビリンスの言っていることは理解できなかった。
なんだか当たり障りのないことを言って、本当に大事な部分は隠されているような気もするが、少しでも情報を得られたのだから良い方ではあるのだろう。
ということで、俺はこれ以上質問することなく引き下がったのだった。
「で?試練は終わったわけだけど俺に渡すもんがあるんじゃないか?」
借金の取り立てかという勢いで、気づいたら出現していたラビリンスに詰め寄る。
【も、もちろんわかってるよ....!】
あまりの気迫に少し後ずさりするラビリンス。
返答からして、出すべきもんはしっかり用意してあるらしい。
【どうぞ。君になら渡しても大丈夫だろう。】
そう言って手渡されたのは一振りの大剣だった。
「おお!」
重さは普通の大剣よりも少し重いくらいだろうか?
柄やグリップには黒を基調として、緑と赤の指し色が入った装飾が施されている。
全体を通して重厚感と気品のあふれる一振りだ。
「これってもしかして伝説の魔物を倒したの大剣とか???」
【かもしれないね。これまでの所有者が何を相手してきたかによるけど。それよりももっといい名称があるよ。】
「...?」
ラビリンスは一呼吸を置いて、貯めるように言い放った。
【──『神武』『カルンウェナン』】
「......ん?」
今なんて言った?
俺の聞き間違いでなければ、ラビリンスは『神武』と言ったはずだ。
【聞き間違いじゃないよ。それはれっきとした『神武』さ。】
俺の心を読んだのかってくらい正確に答えるラビリンス。
そして、その事実は俺の気持ちを最高潮まで押し上げた。
「ひゃっふぉおおおおおおおおおおお!!!!!!俺もついに『神武』ゲットだぁあああ!!!!」
【あはは.....そんなに喜ばれるとは。】
想定以上の反応に圧倒され、苦笑いをするラビリンス。
「そりゃ喜ぶだろ!だって『神武』っていったら、世界に十三振りしか存在しない最強の武器だぞ!そんなの.....」
【そんなの?】
「めちゃくちゃかっこいいじゃねぇか!!!」
そこなんだ、と思わずツッコミかけたラビリンス。
しかし、それと同時にユキマルという人物の生き様を理解する。
君は強さとかにこだわりがないんだね。
重要なのは”ワクワク”......か。
【あははは!】
思わず笑みがこぼれてしまった。
【長い間付き合わせてしまってごめんね。『迷宮』が閉じるまでに時間もないし、そろそろお別れにしよう。】
「ん?ああ。こっちこそありがとうな!」
【あはは。それとこれは僕からの些細なお詫びさ。】
そう言うとラビリンスは俺のおでこに人差し指を当てた。
すると次の瞬間、脳内に莫大な情報が流れ込んできた。
「これって....!」
【そう、『迷宮』の地図と出口のまでの最短距離さ。ここでのタイムロスを少しでも巻き返してくれ。】
「ああ、わかった。」
俺は情報をしっかり受け取ったことを伝えた。
そしてそれを最後に、意識が現実に引き戻されるのだった。
・・・・
・・
ユキマルが無事現世に戻ったことを確認したラビリンスは先ほどのおちゃらけた表情とは打って変わり、真剣な面持ちになった。
【そうか.....君は...そうなんだね。】
ラビリンスは『真理の魔鏡』に映るユキマルの姿に対し、とある推論を出していた。
もしその仮説が本当なのであれば、それはこの世界の根幹を揺るがしかねない事実である。
ゆえに、当人に軽々しく情報を開示できなかったのだ。
【君が迎える結末が本当に世界の命運すらも決めてしまうのかもしれない。まったく.......運命って『迷宮』なんかより、ずっと複雑だなぁ。】
でも、と思いなおす。
先ほどまで話していたユキマルという人物には、世界の運命だとかそういったシリアスなことからは無縁な印象を受けた。
むしろ自分の世界の中で、狭く小さく楽しく生きているような感じだ。
使命感だの責任感だの、大義を抱くようなタイプには見えなかった。
【あはは、やっぱ面白いねユキマル!『迷宮』はここで見ているとするよ。】
そう言ってラビリンスはいつの間にか出現させたソファに一人くつろぐのだった。
いいねとブックマークお願いします!
コメントもお待ちしております。




