ナナーリッヒ・カリオストロ
第七十七話
エルフの里『フェアドラド』では暴力行為は一切禁止である。
というかそもそもできない。
それは『フェアドラド大森林』を覆うように張ってある結界のおかげだ。
しかし、一ヶ所だけそれが適用されない場所があった。
『迷宮』内である。
「はっはっは。俺の読み通りだ。里の中が安全で、すっかりそれに慣れちまっている。」
つい先ほど通りすがりの冒険者の身ぐるみをはいだ連中のリーダーが声高らかに笑う。
彼らの目的は試練やその答えなんかにはない。
もっと現実的な、”物品”だ。
それも平和に酔いしれた、牙の抜けたマヌケな冒険者どもから奪った物である。
いわゆる冒険者狩りだ。
なんと簡単な仕事だ、と思った。
こっちには腕に自信のあるゴールドランクの冒険者が六人。
大抵の通りすがりなら、少し小突くだけで有り金すべて差し出すだろう。
実際そうだった。
そして前方からカモがもう数匹。
二十歳くらいの青年に少女が一人、それに少年(?)が一人だ。
「はっはっは。行くぞ野郎ども。」
こうして勢いよく角を飛び出したのであった。
・・・・
・・
「ここを通りたけりゃ、持ち金全部おいてきな!」
突如として現れた追いはぎに、ため息を漏らすユキマル。
曲がり角に人が六人隠れていたのはわかっていた。
しかし、ふたを開けてみると、なんともめんどくさそうな連中である。
「なにをちんたらしてる、痛い目にあいたいのか!」
アルパカの獣人の男が言う。
手に剣を持っているが、手以外はアルパカそのものだ。
余談だがこの世界の獣人はいろんな種類がいる。
しっぽや耳だけ付いていて、それ以外はヒト族と変わらないタイプから、完全に動物そのものが二足歩行しているタイプまでだ。
今回のやつはだいぶ後者よりだ。
「はいはい、冒険者狩りね。」
「な、何をそんな余裕で!僕様は痛い目に遭いたくないぞ!!!」
俺とフリエナとコラゴンがため息をついてる横で、この世の終わりかってくらい焦っているナナーリッヒ。
俺たちの余裕な態度に疑問を抱く。
「いくら君が強いからと言って、相手は六人だ!それもゴールドランクだぞ!」
冒険者狩りの胸章を指さしてナナーリッヒが言う。
確かに彼らの胸章は金色に輝いていた。
しかもデザイン的に、同門のギルド『フリーダム』だろう。
「おいおい、まさか怖すぎてしょんべんでも漏らしちまったか?」
「へっへっへ、あいつら完全にビビッてますよアニキ。」
「ごちゃごちゃ抜かしてねぇで、さっさと出すもん出さんかい!!!」
俺たちが仲間割れでも起こしたのだと勘違いし、さらに威勢がよくなる冒険者狩りたち。
対話での説得は無理そうだ。
「こいよ、俺たちに喧嘩を売ってきたことを後悔させてやる!!!」
手でかかってこいというジェスチャーをするユキマル。
相手はまんまとその挑発に乗っかったのだった。
「なーにしてんだ君は!!彼らを挑発してどうする!!!」
俺の腕にしがみつき、恐怖にもだえているナナーリッヒ。
「死ねぇ!!!」
ユキマルに向かって突進する冒険者狩り。
手には一丁前に剣を持っている。
カチ
「「ん?」」
冒険者狩りの踏んでいるタイルが少し沈んだ。
「「ん?」」
次の瞬間、俺たちが立っていた地面がすっぽりと抜け落ちたのだった。
「ええええええ???」
落ちていく中、冒険者狩りの顔を見る。
いや、お前も驚いてるんかい。
両者にとって想定外のことが起きた。
そういえばと思い出す。
『迷宮』には危険な魔物の他、罠などもあるとフリエナに忠告された。
察するに、俺たちは落とし穴に落とされたのだろう。
「ぎゃああああああ!!!」
ナナーリッヒの絶叫が反響する。
ユキマルたちはさらに『迷宮』の深部へと落ちていくのだった。
・・・・
・・
「「風魔法『エアークッション』!!」」
地面にたたきつけられる前に、風でブワッと持ち上げられる。
<<エアークッション>>を発動したのは俺とフリエナだ。
いつぞやの『西方奴隷商』のアジトでの出来事を思い出す。
その時も落とし穴に落とされ、こうして<<エアークッション>>で衝撃を緩和した。
思えばあれがフリエナとの出会いだったのだ。
なんとも感慨深いことである。
「よし、全員無事だな!」
見た感じ大丈夫そうだ。
ナナーリッヒは落下の恐怖で未だに口をパクパクさせているが、しばらくしたら意識を取り戻した。
「見てみぃ、雰囲気が変わったで!」
コラゴンの言う通り、今いる階は先ほどまでいた階と『迷宮』の造りに明らかな違いがあった。
これまでの光源が暖色だったのに対して、ここは寒色。
壁の劣化度合も上の階より進んでいる。
間違いなくここは下層だ。
俺たちは中層の罠にはまることで、奇跡的にショートカットをしたのだ。
「ここは下層ね。」
「なら、結果オーライだな!」
「やな!」
罠にはまったことをものともしないユキマルたちを見てドン引くナナーリッヒ。
ユキマルたちはこういったアクシデントに慣れきっているが、通常このような状況ではもっと焦るべきなのだ。
それを理解しながらも、この場のノリに適応するナナーリッヒ。
いくら驚いていても状況は変わらないと理解したのだ。
「それじゃあ進むか。」
気を取り直すナナーリッヒ。
遅れて三人についていく。
「君たちは、どういう関係なんだ?」
唐突に質問するナナーリッヒ。
「どういうことだ?」
「いや、君もパーティーメンバーを雇っているのかと.....。」
ナナーリッヒはフリエナの『風魔法』を見た。
彼女は魔法が使える、魔術師だ。
ただでさえ珍しい上に、先ほど見せた判断力、それに『迷宮』に関する知識。
どれをとっても一級品だ。
だからこそナナーリッヒは、フリエナのようなパーティーメンバーがいる理由をユキマルに聞いたのだ。
「いや、こいつは普通に友達だ。別に雇ってなんかない。」
「......。」
少し悲し気にうつむくナナーリッヒ。
ナナーリッヒもまた、このような関係に憧れていた。
「そうか、友達....か。」
「?」
ナナーリッヒは生まれてこのかた友と呼べる人がいなかった。
その理由は彼の貴族という立場と不出来さだ。
「僕様には二人の兄がいる。一番上の兄は文武両道、いずれ父の地位と領地を引き継ぐ秀才だ。もう一人の兄は、何でもそつなくこなしてしまう天才。外交が得意で、いつも別の国の友人との話を聞かせてくれるよ。」
「......」
「自分で言うのもなんだが、僕様は別に無能じゃない。でも周りと比べるとどうしても劣って見えてしまうんだ。」
拳を握りこむフリエナ。
自分が”持っている側”であることを再度自覚する。
「それで、お前は何で冒険者になったんだ?」
「それは.....抜け出したかったのさ、あの場所を.....僕様が何者でもなかったあの場所を。」
「わかるぜ、その気持ち。」
意外にも賛同したのはユキマルだった。
「俺も、自分の居場所を長らく探していた。ここがやっと見つけた居場所なんだ。」
元いた世界。
そこで俺は生きているだけで謎の疎外感を感じていた。
まるで自分があの世界に属してないかのような。
このまま何もないまま死ぬのかと絶望すらした。
でも、運のいいことに俺はこの世界に来れた。
「共感してくれて嬉しいけど、君には友だとと呼べる仲間がいる。僕には....。」
「あいつらは違うのか?」
ここでいうあいつらとは、ジン、リコ、フィンズのことだ。
「彼らは僕様の父上に雇われてるに過ぎない。君たちのような関係ではない。彼らもきっとそう思っている。」
「お前はあいつらと友達になりたいのか?」
「それは.....。」
黙り込むナナーリッヒ。
だが俺には答えがわかってる。
「怖いんだ。もし何かの拍子でお金を払えなくなった瞬間に、彼らに見限られるのが....!!僕様には秀でたものがないから!」
「そんなことは聞いてない。」
淡々と言うユキマル。
「なりたいさ.....!!!」
勢いよく答えるナナーリッヒ。
それは腹の底から出た、芯からの言葉だった。
「言えたじゃん。そして、その答えを『迷宮』に探しに来たんだろ?」
「....!!」
そうだ、なんで忘れていたんだろう。
『迷宮』の噂を聞きつけて、わざわざ遠くはなれたエルフの里まで来たのは、それが知りたかったからだ。
「そう、僕様は答えを見つけに来た!」
「そうか、なら....行くぞ最深部!」
何やら覚悟を決めたナナーリッヒ。
ユキマルたちは暗闇に向かって歩き出したのだった。
いいねとブックマークお願いします!
コメントもお待ちしております。




