幸せの形
本日2話目
「お待たせいたしました。どうぞ」
コーヒーと、アフタヌーンサービスのスコーンを社長の前に出し、その隣に自分用のコーヒーとスコーンの皿を置いて座る。
そうそう、モーニングサービスは割と全国的に有名になって定着した単語だと思うんだけれど、アフタヌーンサービスというものも愛知県では当たり前にある。
だいたい、午前11時までがモーニングサービスの時間帯。11時~14時がランチタイムで、午後14時から閉店までがアフタヌーンサービスの時間帯というところが多い。
アフタヌーンサービスは、モーニングよりも軽めのおやつを付けるところが多い。
トースト、アイスクリーム、プチケーキ、ホットケーキ、ゼリーなどは定番で、羊羹やみたらし団子が出てくるところもある。
もちろんサービスをしていない喫茶店もあるんだけれど、サービスをしていない喫茶店でも、豆菓子やアラレやピーナッツなどつまみは出るのが名古屋圏の喫茶店の常識。
「うわぁ、すごい、本物のスコーンだ」
本物?
「ふるピョンはすごいね!って、ああ、プロだもんね、当たり前か……ごめん」
ふるピョンって、今言いませんでした?
……えーっと、そろそろ30歳になるんで、そんな高校生みたいな呼ばれ方は……。いや、社長はそろそろアラフォーですよね。35歳からアラフォーって言うそうですし。35は過ぎてますよね。口にする方も恥ずかしくないですか?いや、オタクって恥ずかしさはどこかに置き忘れるんだろうか……。
「スコーンって、実はすごく簡単なんですよ。分量は目分量でも出来るんです。何度か繰り返し作って材料のおおよその分量と手順を覚えれば計量いらずだし、それに面白いことに、スコーンってきっちり粉っぽくなくなるまで混ぜるんじゃなくて、ざっくり粉っぽさが残った状態の方が上手くできるんです」
社長が目を丸くしている。
「え?お菓子って、ちゃんと分量を量って、丁寧に作らないと失敗するんじゃないの?」
「もちろん、大半のお菓子はそうですよ。だから作るのが大変なんです。膨らまなかったり、固まらなかったりといろいろと。だからこそ、スコーンは、短時間で失敗なく作れる優れものなんです。接客の合間に作れちゃうんで。……失敗はしてないはずですが……また試食みたいなことさせちゃいますね。あ、失敗してるかどうか先にちゃんと私が確認しましょうか」
と、試食用に持ってきた自分のスコーンに手を伸ばすと、
「いや、僕に先に食べさせて。閉店間際に来て迷惑かけちゃってるからそれくらいは役に立たせて!」
社長が張り切ってはちみつをたっぷりかけたスコーンを口に運んだ。
ふわりと幸せそうな顔をする社長。
「おいしい」
その顔を見て、私も幸せな気持ちになった。
「よかった」
ほっと息を吐き出す。
失敗知らずとはいうものの、自分基準で合格なだけなので、実際食べた人がどう感じているのか分からなかったので社長の顔を見て安心した。
「幸せそうな顔」
社長がぼそりとつぶやいた。
「はい、社長は今幸せそうな顔をしています。甘い物お好きですもんね」
と即座に返事をすると、社長が首を横に振った。
「いや、幸せそうな顔をしているのはふるピョンです」
「え?」
小さな声でよく聞き取れなくて聞き返す。
「あ、受け取ってください。せっかく持ってきたんで」
社長がパッと視線をそらして、膝の上に置いていた紙袋を再び私に差し出した。
いつもありがとうございます。
前回あとがきの続き。
喫茶店と一言で言っても、どこからどこまでが喫茶店なのかっていうのはとっても難しい話で、
看板にも種類がある。
「◯◯カフェ」やら「CAFE◯◯」てきなもの
それから「◯◯コーヒー」「珈琲屋◯◯」
「喫茶、軽食」だの「喫茶レストラン」だの「喫茶とカレーの店」だの「サンドイッチとコーヒーの店」だの
名古屋圏の人間にとっては、その看板や店の名前、店のデザインたたずまい、止まっている車の種類や自転車の様子などから、選ぶわけです。
「ここのモーニングはすごそうだぞ、ボリュームが」
「ここのモーニングは、オシャレ重視でボリュームはなさそう」
「ここはドリンク高そう」「安そう」……などなど。
だいたい、テンポがたくさんあるチェーン店よりも個人経営の店の方がモーニングはおすすめですし、
珈琲と看板が上がっているのは珈琲自慢でモーニングはしぶしぶやってる、マスターと呼びたいような物静かな渋めの人が店長だったり
まぁ、でも、分かりやすい「なんかモーニングよさそうだな」の見分けるポイントは2つありまして。




