閉店間際の客
本日もう一話更新予定
テーブルを片付けて、誰もいなくなった店内で明日のための準備を始める。
シュガーポットを確認と、店内の清掃。
テーブルは6つのカウンター6席という小さなお店だけれど、大切な私のお城……。
ふと、社長の言葉を思い出す。
「夢……そうだね、ここは私の夢だった喫茶店……そうだ。私、毎日夢の中にいるようなものなんだね」
幸せだ。
どうか、お店に来てくれた人もみんな幸せな気持ちになりますように。
祈るような気持で床を掃除していく。
チリンチリーン。
「いらっしゃいませ」
条件反射で声を出したものの、時計は営業時間終了5分前……。今からお店に来られても……困ったな。こういう場合を想定していなかった。
「社長っ!」
遠慮聞きにドアを開けて顔をのぞかせていたのは社長だった。
「あーっと、少し時間いいかな?」
「どうぞ、入ってください。本当にまた来てくれるとは思わなかったので、あ、営業時間が終わるので、すいませんが、プレートだけ準備中にひっくり返してもらってもいいですか?」
と口にして、仮にも社長に仕事を頼むなんて失敗したと思ったけれど……会社を辞めたのだから社長ではないわけで……。あ、でもお客さんに頼みごとをするのもダメなんじゃ?
「閉店時間……ご、ごめん、えーっと……すぐに出ていくから、昨日バタバタと変な帰り方しちゃったから……これ、ベーゴマのお礼にどうぞ」
社長が手に持っていた紙袋を差し出す。
紙袋はゲームのタイトルが印刷されているものだ。会社の紙袋。……差し出された裏側には、かわいい女の子の、いわゆる萌え絵がバーンと描いてあるオタク全開の紙袋です。
同人誌即売会の企業ブースに出店した時のお客様用だとか色々な種類を作っていたはずですが、どれもまぁ、うん。ある意味目立つ品です。
「いや、そんな、お礼なんていいですよ。お客としてまた来てくれるのが一番のお礼ですし。えーっと、まだ閉店まで少し時間ありますが、コーヒーはいかがですか?」
社長が紙袋を差し出した姿勢のまま固まった。
「あー、そうだね、えっと、そうか。お店の売り上げに貢献したほうがお礼に……でも、残業させることになるんじゃ……」
時計の針は17時まであと3分。
ホワイト企業を目指している社長にとっては、残業させるということがすごく申し訳ないことだと思っているようだ。
「そうですね、あと3分あればコーヒーはいれられるので大丈夫です。そのあとは接客しないということで、どうですか?今ならアフタヌーンサービスの焼きたてスコーンもお出しできますよ?」
「焼きたてのスコーン?」
社長の目がキラキラと輝いたのを見逃しませんよ。ふふふ、甘い物好きですもんね。
焼きたてのスコーンにはちみつ垂らして食べたら美味しいですよー。
「明日に出すものです。夕方お客さんが少ない時間帯に明日の仕込みをしてるんです。もう1回オーブンで焼かないといけないので、どうせ帰れません」
にこりと笑うと、社長がカウンターに座った。
「ホットをお願いします」
注文を受けて、お湯を沸かす。コーヒー2杯分。
その間にオーブンから焼きたてのスコーンを皿にのせ、はちみつを入れた器を添える。これも2つ用意。
お湯が沸いたらコーヒーを入れて。
ああ、なぜコーヒーって何度嗅いでもいい香りなんだろう。湯気と一緒に立ち上るコーヒーの香り。これだけでなんか幸せになれる。
ご覧いただきありがとうございます。
なんだか、心温まる感想をいただいて、とても嬉しいです(*'ω'*)
意外と名古屋喫茶店モーニングミニ知識を楽しみにしていらっしゃる方もいるようで。
今日は作中に出てきたアフタヌーンサービスというのを説明しようかな。
アフタヌーン……
実は、一日中アフタヌーンサービスなる店もあります。
モーニングも一日中モーニングがあるので、当然の流れでしょう。
ただ、不思議なことに「一日中ランチサービス実施中」は見たことない。
ええ、見たことないんです。
ランチメニュー一日中やってますとか……。
もちろん、探せばあるのかもしれないですが……。そもそも通常飲食メニューとランチメニューの境目が曖昧なのが原因なのかな?
うーむ。とりあえずランチに力を入れる店は「飲食店」であり「喫茶店」ではないんですよね。
それから実は「喫茶店」といっても、「純喫茶」と呼ばれるものも……おっと、後半は次話で。




