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「ある日、空から女の子が降ってきたんだ」
俺の救いは……異世界。それしかなかったんだ。
でも、心のどこかで、異世界に行きたくない。そう思っていたんだ。
それはきっと、失望したくなかったから。きっと実際の異世界は俺が思っているのと違くて、どこかに綻びがあるって、わかっていたんだ。だから遠くから見てるだけが一番良かったのかもしれない。
「それが、俺にとっての始まりで、同時に――」
魔崎は神の計画を最初から知っていたはずだ。だから俺を異世界に連れてきた。でも同時に、魔崎は本気で俺に異世界を楽しんでほしかった。そう思っていた気がする。そう思う度、神の計画との狭間に苦しみ、何度も葛藤を重ねてきたのだと思う。
それでも、覚悟を決めてくれた。俺の為に、神に刃向かうと。
「――終わりでもあったんだと思う」
異世界は――どこか現実世界と似ていて、そこがなんだか違うような感じだった。
異世界、ここが異世界。何度も何度も願った――場所なんだ。
嬉しかった。憧れの地に立つことが出来て。でもまぁ、その後すぐ、
『おかしいだろぉぉぉーーーーーー!!!!!!』
『こいつら全員、俺のクラスメイトじゃねーかよぉぉぉ!!』
『校長ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーー!!!!!!!!!!!』
なんて、叫ぶことがあるんだけどな……。
「偶然だ。その時俺はそう思ったよ。でも、全部仕組まれていた事だったんだな」
仲間が出来た。
一人はイケメンでモデルみたいな体型。でもどこか人と距離を置いてるような男。
一人は初対面の相手に魔法を放ったりするけど、誰よりも優しい女。
今思い返してみると……椎名は凜と俺の監視についていたんだな。フレンドシステムを使って。
「それから……色々あったさ。色々な」
突然襲われたり、異世界戦で俺が足を引っ張ったり、
そうしていく中で、俺は少し悩んだことがあったんだ。
――俺は、仲間の為に戦っているか。と。
そのつもりはあったんだ、でも、もしかしたら仲間の為に戦っているという優越感を得る事に執着していたのではないか。自己満足のためで本当は仲間の事なんて全然考えてないんじゃないかって、そう思った自分もいた。
そして何より、仲間のためとか思っておきながら、俺は結局異世界の存在が自分にとっては一番大切だったんだな。だから……いざという時に俺は何度も迷ってしまった。
「でもその度に、皆は俺の事を助けてくれた。仲間なんて考えるのもやめそうになった俺に、それでも手を差し伸べてくれたんだ」
嬉しかった。自分の存在意義が見つかった気がしたんだ。そう、俺の――
「俺がここにいるのは、皆を帰すことだ。そのためなら……異世界を消しても構わない」
皆を返すために俺がやることは――もう始まっている。
昔、針田が『クラウダ』という魔法を使っていたが、あれは魔法表には入ってない架空の魔法だ。この世界は精神を集中させればどんな魔法も使える。その集中力を高めるために『詠唱文』が必要だ。
そして、針田は自分の夢を詠唱文にしていた。あれは自信の集中力を高めるために行った事だ。
しかし、俺が唱える詠唱文は、集中力が必要ではない。という事にある日気づいた。たとえ集中していなくても詠唱文さえ唱えれば魔法は使える。その逆で詠唱文を唱えないと集中していても魔法は使えなかった。
「ありがとう、皆」
そしてさっき唱えた二つの魔法で確信を得た。俺は、『高い身体能力』がこの世界の能力じゃないんだ。異世界での俺の能力は――『詠唱文の長さで強さが変わる魔法』それを――使える事なんだ。
「また、会おう。全て終わったら」
そして、神に『何故、ここにいる?』そう言われた所から、今の俺の全ての発言は――
「最終魔法――」
長い長い、最後の魔法の詠唱文だ!
「チーム・タクティクス」
――ひとつ、思っていたことがある。
昔の俺の存在意義は異世界を慕い、夢見る事だった。
今の俺の存在意義は異世界を滅ぼし、皆を救う事だった。
じゃあ、その後は?
その後は……どうしようかな。
俺は……俺は……
――まあ、なんとかなるか。きっとな。
とにかく今は――俺も帰ることだ。さよなら、夢の異世界。そして――
「さようなら、皆」




