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そう簡単に異世界を味わえると思うなよっ!  作者: はれ
第10 丹川蘭次
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91 神の救い

  「—―ほう?」


 今まさに力を入れようとした神の指は、魔崎の小さな人差し指からゆっくりと離れていく。

 

 「攻撃手段、か……して、それはどのようなものなのだ?」


 来たぞ。

 時間の無さから本当の事を言ってしまったが、この攻撃のネタを吐いてはいけない。その攻撃を警戒されたら、どう足掻いても勝ち目はない。


 「それは……」

 「答えられないか、それなら――」

 「そ、それは、ここにいない存在だ!」


 自分でもかなり苦しいが、ハッタリでもないんでもいい。ここは押し通せ。


 「俺は別次元から超人を呼び出すことが出来る。その超人はどんな岩も砕く力に、音速を超える速さ!そしてIQ三百五十のそんざいなんだ!」


 お、おいおい。

 これはさすがにハッタリがすぎるだろ。


 「あ、いや、そうじゃなくてだなー……ほ、ほんとは!」

 「いいだろう、やってみろ」

 「は?」


 そう言うと神は魔崎を離し、俺に対して手を広げた。まるで「いつでもかかってこい」と言ってくるかのように。


 「さあ、やってみるがいい。その超人とやらを、呼び出してみろ」


 「な……」


 


 「—―そんなわけ、ないだろう」



 突如、俺の腹部に強烈な痛みが走る。見ると、神の足が俺の腹部に当たっていたのだ。


 「がぁっ……!」

 

 俺は痛みに堪え体を丸めるが、尚も神は俺の体を蹴り続ける。


 「貴様は!所詮堕ちた生命体なんだ!私は全く満足出来ない!このクズがっ!ウスノロが!自分の浅はかさを恥じるんだ!何が超人だ!何もできない癖に!」


 ガスッ!ガスッ!神の足が振られるたび、俺は激痛に苛まれる。

 (ま、まずい……このままじゃ、最後の攻撃どころじゃねえぞ……!)

 なんとか……脱出しないと、この鉄槌から。


 「ギリギリまで甚振ってから殺してやる、堕ちた生命体よ!」

  

 

 「ファイヤー!」

 

 声が響き渡る。凜の、魔法だ。


 「邪魔するなぁぁ!!!」

 

 だが、その炎は神に達することはなかった。


 「くっ……後は頼むわよ……蘭次っ……」

 

 ほぼ同じタイミングで、凜は地面に倒れる。ほとんど無いに等しい時間だ。


 でも、

 それでも


 神の鉄槌から逃れるなら、その時間だけで十分だ!


 「神ぃぃぃぃ!!!!」

 「クソがぁぁ!!!!」


 俺の拳と神の拳がぶつかり合う。衝撃によってか、あたりには風が巻き起こっていた。

 俺と神は互いに拳を引き、もう一度振るおうとした俺の拳。そして俺と同じ動きの神の腕に――


 ――ガブゥッ――!!


 神の腕に、魔崎の歯が食い込んだ。


 「はならすはひます(かならずかちます)!……神!」

 「ッ……ウアァァァ!!!死ねェェェ!!!」


 神の蹴りが、魔崎の腰に響く――その寸前で、俺の拳は届いた。

 手の甲に顔面の皮膚に触れた感覚がし、神は地面を舐める。

 それでも、それでも神は立ち上がって、俺に拳を振るってくる。それに応えるように、俺も拳を振るう。


 俺の手の甲には、さっきも感じた皮膚の感覚がした。それと同時に、俺の頬にも、神の拳の感覚がする。

 

 激痛が走る。それでも構わず、俺は幾度となく拳を振るう。神も同じだ。


 



 ――


 俺は地面に膝をつく。まるでガキの喧嘩の殴り合い、蹴り合った俺と……神。

 だけど、ここで俺は疑問に思う。いや、初めから思っていたのかもしれない。


 なぜ神は、俺達をとっとと殺さない?


 神は言った『数秒で勝利を手に入れることが出来る』と。それは嘘ではないだろう。事実神は凄まじい力を持っている。それなのに、何故こうして喧嘩のような事をしているんだ?一体、どうして――


 「立て。丹川蘭次よ……立つんだ。さあ!」

 「……悪いが、いつまでも喧嘩に付き合っているほど俺も暇じゃないんだ」


 何故だろう、今の神は、どこか天真爛漫な子供に見えたんだ。


 「だから――頭突きで占めるぞ。この喧嘩自体はな。勝ち負けはその後だ」

 

 こんな提案に、神は乗ってくるか試してみたくなったんだ。

 そして――神は――


 「……………………いいだろう」


 それに乗ってきたんだ。

 さっき俺をおちょくった時とは違う。本気で言ってきてる。


 俺と神は肩を組む。その目は……どこか、誰かに似ているような。

 

 「行くぞっ!」

 俺と神は息を大きく吸いながら、体を後に逸らし――


 ――ガスゥゥゥゥンッッッ!!!


 「痛って……!!なんつー石頭だてめー!神のくせして!!」

 「貴様こそ……人間風情がっ!!」


 ――ガスゥゥゥゥンッッッ!!!

 ちくしょう。頭に響くぜ。円周角の求め方とか絶対忘れてるぞこれ。頭突きなんて言わない方が良かったぜ。


  ――ガスゥゥゥゥンッッッ!!!

 「いい加減……くたばれや神!!」

 「貴様もとっとと地に行け!!」


  ――ガスゥゥゥゥンッッッ!!!




 こいつは、神は、何がしたいんだ。




 「うおおおおおおお!!!!!!!」


 ――ガンッ――


 神は、真っ逆さまに倒れた。

 (神、こいつは……)


 少し、わかったような気がする。神――お前は、死ぬために日々生きていたんだよ。


 なんでも出来るからこそ摩擦や葛藤が生まれて行ったのだろう。それでも、心だけは天才じゃ無かった。だからこいつはその度に苦しんで――それでも天才だから苦しみを解消できず……いつしか、死ぬために生きるようになったんだ。だが、それも天才であるが故、死ぬことも叶わなかったんだ。


 こいつの犯した罪は変わらない。だが、もし死にたがってたからこそ俺が未だに生きているとするならば――俺は……


 「あ……」


 俺は一歩、また一歩と歩き出す。そして立ち止まったその場所は――俺と、神と、『魔力の溜め池』この三つが……一直線に繋がる場所だった。


 「なぁ、丹川蘭次よ」

 「……なんだ」

 「何故、ここにいる?」


 「……それは」


 これで、全てが終わる。


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