88 空白を埋めたいからな
地面を足で蹴る。この動きは異世界に来てから何百回も繰り返している。
神に近付き、いつものように剣を振るう。
神は俺の動きに一瞬驚いたような顔をしたが、瞬間移動で難なく避けた。
「まだだっ」
すばやく振り向き、左前方にいる神に再び剣を振るう。瞬間移動の現れる場所は分かっているし、位置を把握するのは簡単だ。
だが、その剣も再び躱される。だが――
パァン――!!
部屋中に銃声が響く。椎名が撃った銃弾だ。目標は――神が瞬間移動で姿を現すであろう場所。
銃弾のその先に、突如神が現れる。瞬間移動で現れてからすぐには、再び瞬間移動することは出来ないはずだ。
だが、それでも神は――防御できる策がある。さっき俺の剣を消したように……
次の瞬間、音もなく椎名の銃弾が消え去った。
「消えた!」
ここまではさっきもやられた。だけど――
「ファイヤー!!!」
神の真後ろに、凜が立っていた。凜も神の移動先を予測していたのだ。
椎名の銃弾と凜の魔法に、ほとんど時間差は無い。神は物体を消す能力も、瞬間移動も出来ないはずだ。
神は、凜の方向に振り返ることすら出来ない。当たった――
「きゃあああ!!!!」
凜が――吹っ飛ばされている!?
なんだ。また新しい能力か……!?
「凜!大丈夫か!?」
思わず凜に駆け寄る。
「う、うう……」
凜は苦しそうな表情をしているが、致命傷ではなさそうだ。
神は続けて攻撃はしてこない。やっぱり余裕があるんだな。
「蘭次君、凜ちゃんはどうやら裏拳を受けたみたいだよ」
「裏拳?全く見えなかった上に物理攻撃か……ほんとになんでもありだな」
「全くだね……向こうは余裕綽々って感じみたいだけど、蘭次君、何か作戦はある?」
「—―ある」
椎名の質問に、俺は応える。
もしも、もしも俺の推測が当たってるならば――
「—―だけど、成功する可能性は限りなく低い。他に作戦があるならそっちにした方がいい」
「どうせ他に作戦なんかないんだし、蘭次君に従うよ。それで、僕は何をしたらいいかな?」
「出来れば俺の神。そして『魔力の溜め池』が一直線になるようにしてほしい」
「オーケー。じゃあ凜ちゃん、君はもうすこし休んでていい……よっ!」
椎名が動きを誘導するために走り出す。その間、俺は……
「全てを溶かす熱は、感覚を超え、灰すら残さぬ光――」
「炎、水、風、氷。魔法を束ねる光は、強大な刃となる――」
「使ってみせよ、扱ってみせよ。俺に応えよ遥かな力」
「俺の呼びかけに応えよ!」
「フレアー!」
今までの魔法とは比べ物にならない程の紅蓮の炎が放たれる。
炎は猛スピードで神に近付き――神の体にほんの少しの焦げ跡を残した。
俺が放った炎はまたしても瞬間移動で避けられたが、ほんの少しはダメージを与えられたようだ。
「効いたか?神様さんよ」
「……貴様、どうやった?なぜここに立っているのだ」
「お前にはわかんねえよ。ずっと一人の――お前にはな!」
剣を神に向かって投げる。神は避ける事すらせずに、その剣を掴んだ。
「人の子は精神が極端に弱いと聞いたんだがな」
「間違いじゃねえよ。でもな――」
俺は剣を投げた時の姿勢のまま、
「波紋をもたらす空気――我の呼びかけに応えよ!エアロ!」
パスッ――っと、小さな風の刃が高速で神に迫る。
「なっ……!?」
神は瞬間移動を一瞬ためらう。俺の魔法が想像以上に弱かったからだろう。さっき大きな魔法を見た後だ、戸惑うのも無理はない。
神は姿勢を崩したが、瞬間移動で避けた。だが、もう瞬間移動の位置は分かっている。俺は素早く足元に刺さっていた剣を抜き、神が現れるであろう場所に――投げる!
「くっ!!」
神は剣をさっきと同じように消した。何度も、何度もこの流れは繰り返されている。
(これなら……勝てるはずだ!神と、俺と、あのバカでかい光を――結べさえすれば!)




