83 「神」とは
「神……?」
そう、神だ。今目の前にある物体は針田や中谷さんが言っていた存在なんだ。倒さないといけない相手で間違いない。なのに……体が動かない。
(違う。動かないんじゃない、わからないんだ……!)
こいつの事は、人の形をした生命体としか言えない。いや、外見は完全に人なのだ。だが顔も、胴体も、足も、人の形をしてるのに人の物とは思えない。わからない、自分でもなんだかわからないのだ。
「どうした、我の正体はわかっているのだろ?来ないのか?」
俺の耳に届いてくるその声も、人間とは思えない音をしている。
「来ないなら……こちらから行くぞ!」
神の攻撃が来る。避けないと――どうやって?どんな攻撃があるのかわからないのに。だからといって避けないわけにはいかない、はずなのに……
(体が、動かない……!)
動け、動け、なんでもいいから動けよ俺の体!
「安心しろ、動いても避けられん」
神が、消えっ……
「がっ!!」
目の前で神が消え、いきなり俺は吹っ飛ばされた。
(なんだ……何が起きたんだよ……!)
体は動かない、神は急に消える、俺は吹っ飛ばされる。どれも俺がいままで経験したことのない事象だ。何がどうなってるんだ。
いや、俺だけじゃない、凜も椎名も魔崎も皆、まるで人形のように固まっている。俺達の脳が認識できないのだ。この神という存在を生物と思えないのだ。
「脆い……人の子よ、もう少し頑張れ」
「うる……せぇ。今に……ぶっ倒してやる」
動け、俺は記憶だって消したことがあるんだ。潜在的な俺を引き出せ、あいつを人間と思い込めばいいんだ。
「このぉ……!」
足を一歩、また一歩と動かす、無理やり脳から指令を与え、体を呼び起こす。
「うおおおおおおおお!!!!!!」
恐怖心を紛らわすように声を張り上げ、一心に剣を神に向かって振るう。
剣が神に当たる僅か前に、神は消えた。避けられたんだ。
俺はすぐさま振り向き、左前方に立っている神にまた走り出す。
「あいつは、神なんかじゃない、人間なんだ……!」
再び剣を振るう、それも避けられるが、また振り返り右前方の神を見つけ――剣を振るう
(落ち着け、どっかに法則性があるはずだ……)
その法則さえ見つければ、瞬間移動の位置を予め予測し攻撃できるはずだ。
「なるほど、この能力があれば――確かに異世界戦で優勝も不可能ではないな」
剣を振るい、振り向き見つけ、剣を振るう。その動きの中で――見つけた法則性は、
(三点を行き来している……?)
神は瞬間移動を繰り返しているが、瞬間移動で現れる場所は何回かの周期で同じ場所に現れているようだ。部屋の中に見えない正三角形があって、その角を行き来しているような……。
それなら次に、現れる場所は――
七回目の剣を振るうが、さっきとは違って踏み込まない。神の姿が消えたのを確認する前に、素早く振り返って左前方に――剣を投げる!
――剣が宙に浮いて間もなく、左前方に神が現れた。
(当たった――!)
俺の剣が消えた
消えたんだ。この部屋のどこにも無い。忽然と、何の音も出さず剣は無くなった。神に当たる寸前で。
「な……?」
何が起きたんだ、全く分からない。なにをしたんだ一体。
「ふむ、そろそろ……ネタばらしといくか」
「ネタ……ばらし……?」
「貴様の能力は素晴らしい。異世界戦で優勝しただけあって精神力もいいな。だが、貴様は一で、我は百万なのだ」
四、百万?なにを言ってるんだ……?
「教えてやろう、我はこの部屋に人間が出した魔力を集めてるばかりではなかったのだ。我は貴様ら人間が魔力を放出するたびに魔力を吸収し、その能力を得てきていた」
――は?
それって、それって……
「つまり、我は異世界の人間全ての能力を使うことが出来る。百万の能力が、我にはある」




