79 今更の話だろ!
「椎名様!おかえりなさいませ、異世界の人間の殲滅はどのようになっていますか?」
「いい状態だよ。もうすぐこの戦いは終わる」
「それは良かったですね!して天界には何の用ですか?」
「そう、終わらせるんだ。誰も死なせないために。だからごめんね」
「え――」
椎名が天界の人間を気絶させる。それに合わせて俺達も壁の陰から出てくる。
(これで天界に来てから四人目か……)
魔崎が俺達を天界の『人類の願い叶えちゃいます部』の建物に転送してから五分程経ったが、あまり天界の人間はいない。
俺は椎名が気絶させた天界の人間の体を覗き込む。あれ、これって……
「なぁ椎名、こいつが持ってるのって……銃か?」
「そうだね。天界の歴史って意外と短くて、基本的には人類の後を追っている状態なんだ。最近は人類と同程度の技術があるらしいけど、少なくともこの銃は蘭次君が知ってる物と同じものだよ」
確かに……天界って聞くともっと流線的な建物とかを想像してたけど、実際に天界の建物の中は、基本的な造形は俺達が普段から目にしているものだ。
「なるほど……って、天界に来ても俺の剣が無くならないんだけど、なんでなんだ?」
本来異世界から離れた地点で、魔力で作り出されている俺の剣は消えるはずだが、未だ消えずに俺の手に残ったままだ。
「それが天界と人間界の違いだよ、蘭次君」
「え?」
「人間界では君たちの魔力は何も生まない。でも……天界では魔力を異世界と同じように使う事が出来る。確かにここは異世界じゃない、でも、蘭次君自身が魔力で生み出したその剣は、天界が魔力が意味を成す世界だから残ってるんだ」
「えっと……つまりそれはどういう」
「つまり、この世界は異世界と同じって事」
凜が分かりやすく説明してくれた。なるほど、異世界と同じか、異世界と同じ……
「はあっ!?異世界と同じ!?」
「うるさいっ!」
ムング――と口を凜に塞がれた。いっけね大声出してしまった。
「い、異世界と同じって、それなら……」
「天界の人間は魔法も武器を呼び出すことも出来ないからね。確かに個々の戦いで負けることは無い」
それなら思ったよりこの作戦は成功率が高いかもしれないな。
「でも蘭次君、何度も言うけど『魔力の溜め池』の周りは厳重な警護人に守られていて、警護人は拳銃が標準装備、さらに訓練を受けているらしいよ」
あ、これめっちゃ厳しいやつだ。
「まぁそれでも蘭次君は行くんだろうね……」
「……まぁな。もう行くしかないからな」
そうだ、もう、行くしかないんだ。
「それとさ、蘭次君」
「ん?なんだ」
「勝手なお願いだけど、これから天界の人たちと戦うことになっても……できれば殺さないで欲しい」
椎名は少し苦笑いで言った。椎名は天界の人間だからそう言ってきたんだろうが、そんなのがなくても――
「もちろんだよ椎名。むしろ……誰も死なせない為に戦うんだ」
――椎名が、とかは関係ない。俺達は救うために戦うんだ。それで殺したら、意味ないだろ?
その決意を胸に、俺達はまた歩き出した。




