77 この世界を
「この世界を救うだって……?蘭次君、目指すのは勝手だけど、僕は君の敵だよ?その敵に一緒に来いだなんて……正直どうかしてるよ」
椎名は俺から目を逸らす。もう俺達とは戦わないから放っておいてくれと言うように。
「椎名。この世界を救うためにはお前の力が必要だ。頼む、一緒に戦ってくれ」
それでも俺は手を差し出す。
「蘭次君……どうしてそんなに僕を頼ろうとするんだい?僕はたいして戦闘もできないし、特別な能力があるわけでもないんだよ。それなのに――」
「能力なんて――どうでもいいんだよ、椎名!」
俺は椎名を一喝する。椎名は尚も俺の手を掴もうとはしなかったが、俺が無理やり椎名の手を握る。
「椎名、さっき全部嘘だったって言ったよな?本当にそうか!?お前は言った。『俺と一緒ならなんでもできる気がする』って。本当にそれも嘘なのか!?嘘ならあの時、勝てたと思うか……?」
「……わからないんだよ。その言葉も、僕が天界の人間なのも、君達を裏切らなきゃいけないのも!ああそうだよ、魔崎ちゃんが無理だって言った地点で僕も君達と一緒に行ってもいいと思うよ!でもわからないんだ……僕は、どうしたらいい……?」
椎名の顔にいつもの笑顔はなく、ただ目を瞑って何かに耐えるように下を向いていた。
「椎名……天界の人間かどうかなんて気にすんな。お前は……俺達と一緒に行きたいか?それだけが大事なんだよ」
「僕は……」
椎名は迷っている。だが、あと一押しで――きっと俺達に協力してくれるはずだ。
「椎名、俺は――」
「蘭次、黙ってなさい。これは椎名が決める事よ」
そこに凜が割って入った。
「椎名、これ以上私達は何も言わない。ここからの道はあなたが決めなさい。蘭次、行くわよ」
「凜……」
そうだ、俺達はもう人の道を勝手に決めてはいけないんだ。これから椎名がどうするかはあいつの自由だ。
「魔崎も、行くわよ。もう時間が無いから」
「は、はい……」
俺達は道なき道を歩き出す。世界を救う方法を探すためにも。
……段々と椎名との距離が離れていく。
はぁっ。と凜が小さく息を吐いた。
(これで……良かったのかな)
いや、凜の言う通りだ。道を決めるのは本人。椎名は……その意思が無かったんだ。
「さよなら、しい――」
「蘭次君!」
俺はバッと後ろを向く、そこには、今までで一番激しい顔をした椎名が立っていた。
「僕は、僕は……全部叶えたい!!世界も救いたいし、蘭次君と、凜ちゃんと、魔崎ちゃんと――皆と笑いたい!それは……欲張りかな蘭次君!!!」
欲張りが罪なんて誰が決めたんだ。むしろ――
「欲張りはいい事だ!全部を叶えられるのは……全部叶えようとした奴だけだろ!?」
駒は揃った。叶えるぞ、全部!




