70 押してダメなら
腹がズキズキ痛むが関係ない。俺はひたすらに敵から逆の方向に走り続けた。
(これであいつらとの距離が離れた間に武器を……!)
呼び出す。と振り向いた時、
「はあぁぁ!?」
目の前には、バカがいた。ここまで走ってきたのか!?
有り得ない。突然背を向けて走り出した奴を躊躇わずに追えるものか普通!?どういう思考してんだこのバカは!
「何で追ってくるんだよ!普通急に背を向けて走られたら戸惑うだろ!!」
「え、だって敵前逃亡したのかと思って」
「決勝まで来るような奴がそんなことすると思うか!?」
「え……んー確かに。じゃあなんで逆に走って行ったの?」
ええいなんでこいつはこんなバカなんだ!遠目に見えるチンピラは少なくとも多少は戸惑った表情をしてるのに!
「お前バカか!何食ったらそんなバカになるんだこのバカ!」
「だ、誰がバカだって!僕のどこがそんなバカに――」
「じゃあ言ってみろ!三角形の面積の求め方は?」
「{底辺×高さ}でしょ!こんな問題間違えるわけ――」
「÷2が足りねーぞこのバカァァァァ!!!!」
剣を振り回す、振り回す。腹の痛みなんか忘れてひたすらに振り回す。このバカはもう叩きのめしてやる!
ガン、ガンと剣が木刀に何度もぶつかる。その衝撃で木刀はボロボロだが、バカの捌き方が非常に上手く、木刀は未だ折れる気配すら見せない。
(ダメだ……やっぱり攻撃の手が無い。堂々巡りしたって何も変わらない。クソッ)
やっぱり……無理だったのか?椎名にあれほどの事を言ったけど、一人で二人倒すなんて……到底不可能な事だったのか?どうして出来ないんだよ。こんなに手が無いなんて……弱点も、隙も見つかりやしない。
「クソッ、クソクソクソッ!!」
俺は唸りながらも剣を振るう、負けたくない。絶対に勝つんだ!
「お前、嫌な事でもあったか?周りが全然見えてなかったぞ。俺が回り込んでるのにも気づかなかったようだな。そんな相手にメリケンは勿体ねえ。素手でぶん殴ってやるよ」
――後ろから、チンピラの声がしてきた。
(そうか、また、俺は……)
失敗したのか。
「ぐあッッ!!!」
顔を思いっきり殴られ、俺はまたしてもふっ飛ばされた。
「なぁ、どうしたらいいんだよ。俺は……どうしたら……!」
勝つって俺は言った。何の根拠もないのに。結果がこれだ。相手に何度も振り回され、結果自分から自滅してチンピラの重い一撃をモロに受ける。もう……立てない。脳震盪を起こしたみたいだ。頭がぐらぐらする。
もう、勝てないのかもしれない。




