69 我の呼びかけに
「凜!大丈夫か!?」
「余裕よ!こっちの心配してないでそっちの集中しなさい!」
凜は問題ないらしい。まあ、どんな状況でも余裕って言うんだろうけど……。
「じゃあ、お言葉に甘えて集中させていただきましょうかね」
「舐めてくれるじゃねえか。それじゃあ今までは集中してなかったのか?」
「そうは言ってない。ただ、凜は俺の大切な仲間なんだ。それが傷つけられたり負けそうになった時は……なにがなんでも助けに行く」
「……へっ、そうかいそうかい」
チンピラはいかにも素晴らしい事で。と言いたそうな顔で頭を掻いた。
「そしたら……行くぜっ!」
俺はバカを無視してチンピラを狙って攻撃する。当然バカはそれに反応して二つに折れた木刀を上手く使って防御してくる。
俺の作戦はこうだ。
・ひたすらにチンピラを狙い、バカの意識をチンピラに向ける。
・バカがチンピラを防御した瞬間、バカの防御を吹き飛ばす攻撃を放ち、バカとチンピラ両方を倒す。
……という、やること自体は極々シンプルな事だが、防御を弾き飛ばす攻撃というのが悩みどころだ。バカは木刀とはいえ使い方が上手いので、中々あの防御を弾くのはむずかしいだろう。何か、威力があるものが呼び出せるといいんだけど……。
そして、もう一つの問題点が……その武器を呼び出せる時間が確保できないという事だ。あのバカの動きはやたら早いから、俺が詠唱文を唱えてる間に攻撃を入れられてしまうだろう。なんだこの欠陥だらけの作戦。何でこんなのを思いついたんだ。
(でも……ほかに手があるとも思えないし……これでいくしかないか)
俺は剣を構え、ザッ――と、地面を蹴って相手に近付く。
俺がチンピラを狙って攻撃し、バカがそれを防御、その隙にチンピラが攻撃、その攻撃を俺が避ける。という動きを三、四回繰り返した。
(クソッ……隙が全然ない!)
これじゃあ武器を呼び出す時間なんて無いも同然だ。
「こ……のっ!!」
それでも隙を見出そうとチンピラに尚も剣を振るおうとした瞬間――
「お前、元から俺を攻撃する気が無かっただろ」
ドンッ――と、俺の腹部に……チンピラの、棘付きのメリケンサックが――
「同じ攻撃ばかりしてきやがって。バカみてえだぜ。俺の隣に居る奴と同じで……なっ!!」
チンピラが腕を振るい、俺は吹っ飛ばされた。
「うっ……!」
小さな呻き声をあげることしか出来ず、俺の体は草木を掻きわけて転がっていった。
(しまった……!隙を見つけることに集中しすぎて、敵の変則的な動きに対応できなかった)
変則?いや違う。向こうはバカが攻撃→チンピラが攻撃。という動きだったのをバカが防御する前にチンピラが攻撃した。ただそれだけの事だ。なのに……俺はまともに攻撃を食らってしまった。
「クッソ……これくらいで……!」
腹部に鋭い痛みが走る。見ると、そこまで深くはないとはいえメリケンサックの棘で出来たと思われる傷があった。
「へこたれるかよっ!」
痛みは動けなくなるほどではない。だが、どうする?このままじゃ向こうに攻撃は出来ない。
(それなあ、こっちも……!)
俺は敵に近付き、もう一度チンピラに攻撃すると見せかけて――今度はバカを狙う!
ガンっ。と鈍い音がして、バカの木刀が受け流すように俺の剣を止める。クソッ、完全に逆をついたと思ったのに、それでも防御された。
「なんでそんなにすばしっこいんだよっ!」
俺は防御された後すぐにローキックを放つが、それもジャンプして避けられる。左からチンピラのパンチが来て、俺はそれを一歩下がって避ける。避けた姿勢のまま剣を薙ぐように振るうが、これもバカの木刀に止められる。だが、それもフェイント。俺は下がった一歩を戻すように踏み込み、さっきのお返しとばかりにチンピラの腹部に拳を――
「ぐあっっ!!!」
――入れるつもりが、逆にチンピラにまた拳を入れられた。今度は俺を吹っ飛ばさず、右の拳を入れたまま左の拳も顔面に――
ガンッ――と剣で拳を防ぐが、その衝撃は腹部に更なる痛みを与えた。
さっきから何となく気づいてはいたが、やはりこのチンピラ……相当頭がキレる。バカは俺の動きを見てから対応するのに対して、チンピラは俺の動きを読んでから行動している。
事実俺のフェイントも殆どばれてたしな。
(本当に、どこにも隙がないっ……!)
どうする、どうする。何度突っ込んでもこっちの傷が増えるだけだ。
ジンジンと腹部が痛む。痛い。その思いが頭を支配し始める。でも、まだ大丈夫だ。次食らったら……危ないかもな。
そうならないように……俺は……どうすればいい?このまま突っ込んでもまた――突っ込む?突っ込むのがいけないのか。それなら――
「――んなっ!?」
「――ええっ!?」
俺は、敵とは逆の方向へ走り出した。




