67 勝つことが勝ちではない
俺と椎名はそのまましばらく草原を転げまわって……敵から随分離れた場所で停止した。
「……つつ……し、椎名!大丈夫か!?」
俺は倒れた椎名に慌てて語り掛けるが、返答はない。
だが、椎名の姿は消えてはいない。つまり、この世界で死んだわけではないんだ。まだ意識を取り戻す可能性はある。
「椎名!おい椎名!起きろって!!」
俺は椎名を激しく揺さぶるが、それでも椎名は起きない。
「椎名!勝つんだろ!?ああ言い出したのは俺だよ。でもな!勝つにはお前がいなきゃいけないんだよ!!椎名!!」
「……はは……厳しいなあ、蘭次君は……」
弱々しく、今にも掻き消えそうなほど細い声を出した。
「……でも、ごめんね蘭次君。僕は動けないみたいなんだ。だから……君の願いを叶えるのは……」
「いや、それでいい」
「……え……?」
「勘違いするなよ椎名。俺は起きて戦えと言ったんじゃない。俺達が……勝つところを見てもらえればそれでいいんだ。だから寝るなよ。瞬きも禁止だ」
「そ、そんな……無理だよ」
「お前はすぐ諦めるんだよ。仕方ない仕方ないってな。椎名、今諦めただろ?」
「それは……」
椎名はいつものような苦笑いした顔にはならず、心から申し訳ないという表情をしていた。
「その諦めは俺が覆してやる。だからもう、諦めるのはやめろ。諦めるという行為は、人類の可能性をせばめてしまうぞ」
俺は精一杯の笑顔を椎名に作った。
「蘭次君……」
「じゃあな。しっかりそこで見てろよ」
俺は椎名に背を向け、敵に向かって走り出す。
覆すなんて言ったが、戦況は相当悪い。作戦なんて無い。だが……負けない!!
「遅いわよ蘭次!」
「待たせてごめんな!おりゃああ!!」
凜がギリギリで相手してた三人の間に割り込む。その攻撃は当たらなかったが――
「凜、その女の子を頼む。今度はよそ見しないようにな」
「え……ちょっと待って!それじゃ蘭次は……!?」
「出来る。絶対にな。じゃあ頼んだぜ」
そう、俺はチンピラとバカ、二人を相手にするのだ。
「……へっ、随分と舐められたもんだな」
「……舐めていると思うなら勝手にしろ」
「ああ?」
チンピラは悪い目つきを一層悪くしたが、その奥には柔らかな優しさのような物がうっすらと見えた気がする。あいつも……もしかしたら根は優しいのかもしれないな。
「それよりお前、俺のメリケンを指されたのに、出血の跡が見えないんだが、どうやったんだ?」
チンピラが俺の腹部を見てそう言った。
「ああ。これなら俺には刺さってなかっただけだよ」
「……咄嗟に剣で防御したって事かよ。末恐ろしいな」
「……えっと、本当にいいの?」
横から違う男が話しかけてくれた。
「ああ。俺はそのつもりだぜ」
「そっか。それなら仕方ないね」
この人も、バカな見かけに優しいのかもな。バカ改め優しいバカだな。
「じゃあ、行くぞ!」
俺は駆けだす。
――結局この世界では、俺はガムシャラに やるしか……ないのかもな。
優しいバカの『きれいなジャイ〇ン』感。




