7 この世界にまた裏切られるまであと――
――校長との死闘から二か月――
「蘭次様!朗報ですよ!」
うだるような暑さに、俺は動くのも面倒になっていた。
「…………」
外からはセミの鳴き声が延々と聞こえてきて、ハッキリ言ってしつこいぐらいだ。
「行かないよ」
「まだ何も言ってないですよ!?」
それはそうと俺は、特に異世界に行くわけでもなくだらだらと過ごしているだけだった。
校長を倒して現実世界に戻り、うちの学校では夏休みに入っていた
「だって魔崎が俺の前に現れたときは、その話題以外何があるんだよ」
「それはそうですけど……でも!話くらい聞いてくれったていいじゃないですか!」
「面倒くさい。以上」
「いいから話を聞いてください!」
魔崎の奴……俺がだらだらしているとみたら毎日毎日俺の前に現れやがって……しかもその登場の仕方が急に目の前に煙とともにでてくるもんだから心臓に悪いのなんのって。迷惑メールかっつの。
ちなみになぜ俺は異世界に行ってないかというと、どうせ二次の世界に行っても俺の『想像の範疇』でしかないからだ。
俺の記憶を基に作ってるんなら、結局俺が考えたものを捻じ曲げたような奴しか出てこない。しかもこっちはボロイ装備。こんな中でわざわざ死の痛みを味わう危険性を冒す必要はないからだ。
せめてもう少し敵とかが何とかなればな……惜しい世界ではあるんだけど。
そう考えると、魔崎の話を聞く気が沸いてきた。
「……わかった。話を聞こう」
「……ありがとうございます。朗報というのは、異世界に新しい設定ができました」
「新しい……設定?それはその世界の改良か?」
「それも兼ねて作り出しました。その名も……『フレンドシステム』です!」
「すごい単純な名前だな」
なんとなくそんな気がしていたけど。
「このシステムは、いわゆる――」
「俺の他にその世界にいる奴に会える。みたいな感じだろ」
「――なんで知ってるんですか!?」
「そりゃあ、名前的にな……」
「うー……でも、それだけじゃないですよ!」
それでも。と、魔崎が話してくる。
「今回は、その世界の人たちと、チームを組むことが出来まーす!」
「だろうね」
「何でですかぁー!」
「いや、だって、この世界のゲームとかでも、そういう設定あるし、それじゃパクリなだけかと」
「そんなぁー……でもでも!まだあります!」
まだあるのか。
「そのフレンド設定を活かしてあっちの世界では、敵の存在の仕様を大きく変えることができます!」
どうだ!とばかりに魔崎が切り札を出してきた。
「敵の存在の……仕様?それって、出てくる敵が俺の現実と記憶を基にしたやつじゃなくなるってことか!?」
「ええ、厳密には少し違いますけどね」
そうだとしたら、自分の想像の範囲内でしかなかった世界が大きく変わることになる。
「でも、フレンドシステムでなんでそんなことができるんだ?」
「それはですね、フレンドシステムであった人とチームを組むと、そのチームを組んだ人と『記憶の共有』することができるんです。それをすると敵がチームを組んだ人と、自分の両方の現実を基にして敵が作られます。そのため、たとえばチームの人数が蘭次様を含めて三人いたとすると、敵は三人分の現実と記憶を基にして作れられます。なのでその分蘭次様が想像してるより違った感じの敵が現れる。といった感じです」
「なるほど……でもそれは、敵が変わるという事だけか?」
「はい。フレンドになった人と共闘できるということ以外は敵の変化だけですね」
うーん。俺としては魔法や装備も変わってほしかったが……まあ、敵が変わっただけいいか。
「とにかく、論より証拠です!行ってみましょうよ!向こうの世界に!」
「……そうだな、行ってみるか」
「はい!それでは……クリエイション」
「ああ、英語変えたのね」
初めて向こうの世界に行った時と同じように、周りが泡のようになっていく。
そして二次の世界が構築されていく。また二次の世界に行くのか。なんだかんだいって楽しみだな。そうだよな。色々悪い点があっても、二次っぽい世界であることは確かなんだから。
「俺は、いつまでここにすがってられるだろうか」
ふと、そんなことを呟く。なぜかその時の俺は、一度も考えたことのない事を呟いていた。
でもたしかにそうだ。この世界があっても、俺のいる世界は何も変わらない。たとえ二次の世界があるという『事実』があったからといって、俺が三次元の世界に居るという『現実』は何も変わらない。そして何よりこの世界はあまりにも……脆すぎる。
「何か言いましたか?蘭次様」
そしてまたこの世界に来て、また裏切られるんだろうな。
「なんでもない」
俺がまたこの世界に裏切られるまで、あとどれくらいだろうか。
今回から中盤に入ります。よろしくお願いします