61 戦いを巻き起こす時
「明日だ」
「急っすね……」
異世界戦の会場にたどり着いた俺は、屋内にいた中谷さんに異世界戦の決勝の日にちを聞いたところ、こんな返答が返ってきた。
「それより貴様、他の二人はどうした」
「椎名と凜か?おとといはぐれた」
「そうか……まあいい、貴様だけでも会ってこい」
「へ?会うって……」
「—―針田にだ」
中谷さんがそう言うと、俺の体は宙に浮いて、どこかに飛んで行った。
「話せるのは10分間。私以外は誰もいないから好きに話していいぞ」
飛んで来たのは丸で刑務所の面会室みたいな――って、本当に面会室じゃないか。
灰色の床、そして目の前には――
「針田……」
昔俺達を襲った男がいた。
「蘭次君、久しぶりですね」
針田は、俺を見るなり柔和な顔つきでそう言ってきた。
「……随分と気軽な挨拶だな」
「こうなることは覚悟していましたし、あなた達が面会に来るのは知っていたので」
「そうか。ここでは何をしてるんだ?」
「特に何もしてませんよ。拘束といっても異世界に来る場所が制限されるだけで、現実世界ではなんら支障はありません」
針田がペラペラ喋る。前から良くしゃべる男だったし、喋るのが好きなのかもな。
「そうか。じゃあ単刀直入に聞くが……お前は誰と戦っていた?」
俺がそう聞くと、針田は元から狭い目をさらに細めた。
「前も言いましたよ。神です」
「じゃあ教えてもらおうか、それはなんだ?」
「知りたいですか?」
針田は意地悪そうな笑顔を顔に浮かべてきた。
「ジョークが好きだな。あれだけ俺達に迷惑をかけておいて、はいサヨナラなんて許されると思ってるのか?」
「ふむ。それもそうですね……しかし、蘭次君。逞しくなりましたね。修羅場を乗り越えてきたようでうれしいです」
「好意的に受け取っておくよ」
「ありがとうございます。それで、私の言う神ですが……私にも、良くわからないのです」
針田は申し訳なさそうに言った。
「私が知っているのは二つだけです。一つ、神とは天界を統べる存在であること。二つ、その天界はいつか――私達人間から、この世界を奪い取るつもりです」
「……奪い取るって――」
「そのままの意味です」
針田はまた笑顔を見せてきた。
奪い取る……そんな事が、本当に起きるのか?だが、それなら天界は俺達にこの世界を一時的に『貸してる』ということになる、それは何故だ?
「そろそろ時間だ」
中谷さんがそう告げてきた。
「針田、最後に一つ教えてくれ、俺は――どうしたらいい?」
俺がそう聞くと、針田は俺の目を見据えて――
「—―それは君が……蘭次君が決めることですよ」
その声を最後に、俺は元の場所に戻された。
「……全く……」
俺はフーッと、息をつく。
「それが一番、困るんだが……」




