56 記憶、覚醒
『そう、武器よ。実は武器も魔法なの』
いつだったか凜がこう言っていた。魔法も、武器も、呼び出す原理は同じ。必要なのは出したい物質をイメージする想像力と集中力。それらが大きければイメージした物質が現実に現れる。魔法の仕組みはこうなっているのだ。
そう、誰にでも魔法は使える。相応の精神力があれば。
ただ、使えたとしてもそこまで大きな魔法は俺には作り出せないだろう。だったら――武器。簡単にできるとは思ってない。ただ、この状況を切り抜けるのは――この方法しかないんだ。
「ファイアー!」
凜が魔法を使う声が響く。椎名も攻撃を続けている。いいぞ、翔がそっちに気を取られてくれたら、俺は全く気付かれずに奇襲を仕掛けられる。
翔は俺が武器を失って諦めたと思っているだろう。だが俺は……必ず成功させる。
俺は目を閉じ、拳に力を入れる
(集中、集中……出したい武器をイメージするんだ)
パァン――!椎名の銃声が響く。だがそれに気を取られるな。集中しろ。頭の中をそれだけにするんだ。
(頼む。出てこい、出てこい――!)
――だめだ。
いくらイメージを繰り返しても、武器は出てくる気配すらない。
やっぱり……無謀だったか。目を開けると、凜が魔法を放っているが、全て能力をコピーした翔の魔法に防がれている。椎名も凜をサポートするように動くが、椎名は傷を負うことはなさそうだ。
「いい加減にしなさい……っ!エアロ!」
『エアロ!』
エアロ……?凜は魔法の名称を呼んで魔法を使っている。なぜなら言葉を用いることで物体をイメージしやすくするためだ。これは針田が言ってたことだが――
「あ……」
そういえば針田も、詠唱文を唱えたことがあった。その時は椎名が助けてくれたが、針田は長い詠唱文によって強力な魔法を発現させていた。
(詠唱文。そうだ、俺は――)
俺は再び目を閉じる。だがさっきとは違い体の力を抜く。そして翔にバレないよう少し翔と距離を取る。今から、そんなに大きい声は出さないが詠唱文を唱えるからな。その詠唱文は、
「激しい音と共に空間を切り裂き――」
『美しく輝く刃は身を削り、取る――」
「一瞬の閃光と放たれた一筋の道は――」
『全ての戦士は、ここから始まった――」
「希望の未来を、切り開く――」
『あらゆる戦士に、勝利を――』
「我の呼びかけに応えよ!」
『我の呼びかけに応えよ!』
そう、昔の俺は毎日毎日異世界の事ばかり考えていた。いつしか武器や魔法を出す時には長ったらしい詠唱文を唱えるようになった。今思い返すと、言葉の一つ一つが面倒な言い回しだし、そんなの言ってたら敵に倒されるだろとツッコミ所だらけだが……
そんな詠唱文が、今この状況を打破する理由になり得るのだ。
俺はこの詠唱文を唱えてる時だけ、不思議なくらい集中できたんだ。
「希望の銃弾――拳銃!」
俺の手に、黒光りする拳銃が収まる。出来たんだ。俺は武器を呼び出せたんだ。
だが、この拳銃を使えるだろうか。昔見たアクション映画に出てきた銃がモデルだから。その映画の通りにやれば撃てると思うが……。
(お、お、落ち着け俺!)
やばい、手が震える。拳銃なんか持ったことのないから、パニックに近いものを起こしてるんだ。お、落ち着けって!大丈夫だ!今時アメリカでは誰でも拳銃を握ったことはある!
パァン――!パァン――!再び椎名が発砲したみたいだ。そしてその音で俺は――
震えが、止まった。
そうだ。俺は、皆を助けるんだ。パニックなんかに、なってられないんだ。
大丈夫、絶対できる。あの映画に出ていた人と同じようにするだけだ。
すでに銃に弾は挿入されていたので、俺はスライドを動かし、グリップを握る。あの時の映画に安全装置を外す動きは無かったから……おそらくグリップを握った地点で自動的に外れる仕組みになっているんだろう。
俺は見様見真似で拳銃を構える。翔との距離は――十メートル程。これ以上近付いたら翔が俺の動きを察知する可能性がある。
(必ず――成功させる。失敗は許されない。この一撃で……決める!!)
左手で強く銃を握る。その左手とは対照的に、右手の人差し指をゆっくりと動かし、引き金を……引く――
バァン――!!!
椎名の発砲音とは少し違った音がして、放たれた銃弾は、翔の……頭に向かって突き進んでいく。
熱によってオレンジ色になった銃弾は……高速で回転しながら翔の頭を――掠めた
「……」
声も出ない。
「いっ――?」
翔が声を上げて銃弾が掠めた場所を抑える。
(失敗……した……)
駄目だった。俺には無理だったんだ。どんなに高い身体能力があったって、扱い方をよくわかっていければ武器は応えてはくれない。素人の俺に当てられるはずは無かった。頭を掠めたのさえ、奇跡みたいなものなのに……!
いっそのこと、また剣を呼び出して投げればよかったかもな。と、自傷気味に笑って顔を上げると――
「蘭次、剣を!!長く――!!!!」
――凜が、そう叫んでいた。
剣を――長く?何を言って――
「椎名、撃ちなさい!アレを――!」
「――!!」
俺はすぐさま詠唱を始める。凜は翔の動きを止めるように魔法を放つ。
「何をしようとしてるんだ。お前ら……させねえぞ!」
「私もさせないわ。ねえ、知ってる?私の名前は美永凜。あなたと一緒よ……父さん?」
「んなっ……!?」
「長く、太く、鍛えられたその刀身は、豪の者に破壊の喜びを与える!我の呼びかけに応えよ――」
剣を、長く。『アレ』剣を――これは俺に剣を出せと言ってきたんだ。
「大剣!!」
長く――これは長く大きい剣を出せと言ってきた。
「蘭次君!!!」
パァン――何回も聞いたこの銃声。それと共に出てきた銃弾は翔の僅か横を通った。
椎名が撃ち損じた――のではない。さっきまで使っていた俺の剣では出来なかった。届かなかったんだ。でも、これから起きることに、翔は対応できない。なぜなら、予測しようがないからだ。
『アレ』これは、俺と椎名がさっき失敗した『アレ』だ。今俺が持っている大剣は、さっきの『アレ』では届かなかった所にも――届く。そう、この大剣で銃弾をはじき返す――
『銃弾弾き――!!!』
大剣に弾かれた銃弾は、まさか銃弾が来るとは思ってない翔の――俺が当てられなった頭へ!!
――ではなく、翔の足に当たった。
……ま、まあ、頭は狙って……たけども、結果オーライだよ!これで翔は動けなくなったし、一件……落着かな?
うーん、締まらない。なぜ俺はいつもこうなのだろうか。
「あー所で、凜、さっきの『お父さん』ってのは……」
「冗談に決まってるでしょ。あんなのが父親なんてお断りだわ」
小悪魔っぽい笑顔を浮かべて凜はそう言った。




