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そう簡単に異世界を味わえると思うなよっ!  作者: はれ
第7 美永翔
57/97

54 丹川蘭次

  大山(この子)には、まだ会ったばかりだ。

 だから、凜や椎名のように仲間意識は無い。ほぼ他人みたいなものだ。

 だから……この子を斬っても、大丈夫なんだ。大して義理もない俺がこの子の事を考える必要はないんだ。

 俺は……言い訳が下手だな。そんな言い訳をして、大山を斬る事を正当化しようとしてる。カッコがつかないにも程があるぜ全く。

 ……本当は、言い訳なんていらないんだ。これは、本人のためだから。だってここで斬らなかったら、大山が連れ去られちゃうからな。何よりも本人のためだから。仕方ない。

 ――それも言い訳じゃないのか――?

 違う!これは違うんだよ!悩むなよ……いつから俺はこんな初歩的な事も分からなくなっちまったんだよ!ここで斬らなかったら、大山だけじゃない、皆、皆苦しくなる。そうだろ!なあ――

 (頼む、迷うな、悩むな、逃げるなよ――丹川蘭次!!) 

 

 


 何分にも感じられたこの時間は、実際はほんの数瞬だったのだろう。

 辺りの気流が一気に流れ、椎名の髪が揺れる。

 俺は、なんとなくだけど、最初から分かっていたんだと思う。

 ここで自分が下す決断について。

 (ああ、やっぱり俺は……)

 俺は、斬れなかった。大山もろとも翔を斬ることが出来なかった。

 チクショウ。斬らなかったら斬らなかったで後悔の念が残るゼ。

 「蘭次、あなた……」

 後ろを向くと凜が目を見開いている。その後、全てを知ったような顔つきになり、

 「私は……私は、あなたの意思を尊重するわ」

 分かってくれたんだな。凜は、だけど、この状況は……

 「……てめえ、わざと斬らなかったなぁ?」

 傷一つ付けられなかった翔の、相変わらずひどく訛った声が俺に言ってくる。

 「お前を気にしたわけじゃない」

 「知ってるぜぇ。だが、これはなぁ。いや……まあお互いにも正義があるしな……」

 「何を言っている……?お前は一体――」

 「うーん、まあ、ただの臆病者なのかもしらんが、教えてやるかぁ」

 翔は良く分からないことを呟いてから……一つ、瞬きをして、

 

 「この戦いは、局地的に見ればお前らが正義だ。だが、大局的に見れば、俺はこの世界を救う活動をしている」

 

 全く訛ってない声で、そう告げてきた。

 「はっ……?」

 意味が分からない。俺の感想はこうだ。ただ、その言葉に反応したのが――

 パァン――!!!!!

 椎名の銃弾が熱を帯びながら翔に跳んでいく。正直大山にも遠慮してない感じで。

 翔はそれを、

 「話の途中だろうが」

 すでに銃口から銃弾の動きを見抜き躱している。俺の能力をコピーしたんだ。

 「いいか、これは力あるお前らだから言えることだ。いいか、この娘は――」

 「蘭次君!聞くな!聞いちゃいけない!この場ですべき目的を思い出すんだ。君がやることは――」

 パァン――!パァン――!連射機能がある拳銃ではないのか、一発ずつを素早く撃ちながら、椎名は声を張り上げる。

 「—―大山ちゃんを救うことだ!だってそうだろ!こんな健気な子を攫うような奴の話なんて聞く意味がない!そんなもの聞くくらいなら――すぐにでも、救えばいい!」

 椎名、お前おかしいぞ。あまりにも挙動がおかしい。客観的に見たら、お前の方が悪者だ。話を一切聞こうとしてないんだから。

 「椎名!!あんたやっぱり――」

 凜が、感じていた疑惑をはっきりさせた。そんな感じで椎名を怒鳴りつける。まずい、この状況――この場の誰とも意思の疎通が出来てない。こんなんじゃ、大山を助けるどころか、動きが取れないぞ。

 この場の三人は、皆やろうとしてることが違う。しかし俺は、それほど強い目的をこの場でもててない。つまり、俺が誰に付くかだ。そうすれば俺が付いた人間がこの場の支配者になる。

 誰に付く。椎名か、凜か。それとも……翔か?大山はまた眠らされたみたいだが。

 どうする。誰に付くんだ。俺と考えが似ている凜か?それとも――

 「蘭次君!例え正義があったとしても、それは『本物の正義』ではない!全員を、誰もが救うのが『本物の正義』なんだ!!だから僕らはここで救わなければならない!彼女を!!」

 お、おいおいそれはねえだろ。それでもし正義だった翔を倒しちゃって、『はっはっはっ、これが誰もを救う本物の正義だ』なんて言った日には、本物の悪役もいい所じゃねえか!


 「……分かったわ、もう後で話聞けばいいわ。この場で話させると誇大してきそうだしね。椎名も引きそうにないし」

 

 ええ!?そこで凜が動くの!?クソ、俺が決断するってのは何処に行ったんだよ!!!

 「お、おいお前らっ」

 真面目に話す気だったのか、ずっと訛りを正して喋っていた翔だが、俺達が勝手にバラバラになって勝手にまとめた様子に困惑している模様。うん、それはそうだろう。それはそうだろう。俺が一番困惑してるもん。

 うーん、このあたりの態度は悪人じゃない感じもするんだけどなー翔。でもここで俺が一人違う事をしだすわけにもいかないので、俺はさりげなく凜と椎名の後ろに場所を取る。

 

 「知ってることを洗いざらい全て吐いてもらうわ!そのための拷――尋問のために、美永翔。あなたを拘束するわ!!」

 

 なんだそれは!!もう『本物の正義』とは程遠いよ!てか一瞬拷問っていいかけたよね!?

 ……などと言葉が出かけたが、これを言ってしまったらボケとツッコミが成立したお笑い集団になってしまうので、グッと喉奥に戻す。


 ええい、こうなったらもう構わん!翔!お前を拘――逮捕するぞ!この世界に警察がいるかは知らんが!!

 


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