52 チート能力は必ず穴がある
俺は……絶句する。
有り得ないことが起こると、人間は思考を停止させてしまうものなのか。
凜の魔法をはじき返した、その魔法を使ったのは……翔。
翔の特性は分かっていた。俺と同じ近接系アタッカーで、魔法は一切使わない――そのはずだったのに。
(駄目だ……動けないっ……!)
俺の頭はそう思った、だが体は――動き始める。
ここで止まったら殺される。そう感じたままに俺の体は反射的に動いていた。翔に向かって。
「うわああああああああああ!!!!!!!」
俺は叫びながら翔に剣を振るう。
感覚は……無かった。避けられたんだ。それはそうだろう。そう簡単に当てられはしないだろう。
「目を閉じなさい!!フラッシュ!」
凜が魔法を唱える。その瞬間周りは光に包まれた。『逃げろ』のサインだ
「ちくしょう……ちくしょう……!」
俺は目を閉じて一目散に逃げる。
しかし、それにしてもどうしてなんだ。どうして翔は魔法を使えた?あいつは実は魔法を使えるのか?駄目だ……悲しいかな俺の知力じゃ何もわからん。
「ちっ、逃げんのかよぉ」
また訛った声に戻った翔の言葉を背に、俺は宿屋から逃げ出した。
「やっと見つけた」
しばらくたった後、凜と椎名に合流した。
二人とも疲れた顔をしていた。仕方ないだろう。俺達は二回も負けたんだ。
「椎名。翔はまだ宿屋を出てないわね?」
「うん。あの部屋に窓はないし、宿屋の出口は一つしかないからね」
「わかった。見張りをしながら聞いて。蘭次に聞くわ。洞窟の下で翔と初めて戦った時のこと、覚えてる?」
「あ、ああ。今日の事だからな、はっきり覚えているよ」
「翔と戦った時、先に仕掛けたのは翔?それとも蘭次?」
先に仕掛けたの?確か……
「俺が攻撃して、翔がそれに対応したんだ」
「それで十分よ。奴の能力が分かったわ」
「はあ!?」
「えっ……?」
俺と椎名は驚嘆の声を上げる。これだけの情報で翔の能力が分かったのかよ……これからは参謀凜と呼ぼう。
「簡潔に言うわ。奴の能力は……敵の能力をコピーすることよ」
参謀凜はさらっと言ったが……コピー?じゃあ、
「翔は凜の魔法をコピーして使ったのか?」
「そういう事になるわね」
なるほど……それなら翔の戦闘能力が高かったり、魔法を使えたり出来るのは納得いく。
「でも、どこまでコピーできるもんなの?」
「おそらくだけど、見た能力なら同じように使えるわ。奴は頭がいいみたいだし、本人以上に能力を上手く使えるかもしれないわね」
そういえば翔は、『わかってない』そう俺に言っていた。あれは自分の方がうまく能力を使えるという意味だったのか。
「それと発動条件だけど……コピーしてる対象を見てる時じゃないとコピー能力は使えないみたいね」
それだと比較的限られた能力に思えるが……それでも大きな脅威だ。
「いい?翔はもうすぐ大山を抱えてあの宿屋を出ると思うわ。そうしたら……奇襲をしかけるわよ」
「分かった」
この出来たばかりの静かな街中、その角で、大きな戦いが幕を開けようとしていた。




