47 戦いにおける下克上
「殺すって……出会い頭に人を殺すなんて良くないぞ道徳上」
「ああ、悪かったなぁ」
「そうじゃなくて、理由くらい教えろよ。それとも特に理由もなく殺すってか?」
「それに近いなぁ」
近いのかよ。
だが、そんな事を言うって事は……この世界では人の生死は問題ないって考えか。
異世界でそういう考えの奴は大概、何らかの企みを持ってる。針田然りな。
「じゃあ近くてもいいから、理由を教えろ」
「そうだなぁ……まぁお前に興味はねぇんだ。興味があるのは……その女だ」
そう言いながら翔が指したのは……素っ頓狂な顔をしてる大山。
「こいつに……?まさかお前は『兄貴』と仲間なのか?」
「まあそんなところだなぁ。っつう訳で、お前がその女を渡してくれるならいいんだがぁ……そういうつもりじゃないんだろ?」
普段は訛っているように喋る翔が、その訛りを正した時――
――俺と翔が、同時に飛び出した――
(――――っ!!)
ガキィィィィィィンッッッッ!!!!!
翔の武器は……俺が使ってるのと似てる剣。
その剣と剣がガッチリと噛み合い、
「だあっ!!」
「おらっ!!」
俺が繰り出した左足でのキックは……これも同じような翔のキックで阻まれる。
俺は剣から手を離し翔の腹に向かってタックルを放つ。が、翔は俺の動きを呼んでたようにタックルを受け流す。
俺はタックルの勢いをそのまま維持して一旦翔から距離を取る。
「ははっ、良い動きするなお前はぁ」
「……褒めてもらって嬉しいよ」
俺は苦笑いしてから――地面に落ちていた石を素早く拾って投げつける!
「ははぁ」
翔は同じように石を素早く拾い、ヒョイッ――軽く石を宙に投げて、俺が投げた石と、衝突させて進路を変える。
その動きの隙に、俺は一気に翔との距離を縮め……真正面から右ストレートを放つ。
だが体の重心が前に傾いてる時のパンチは威力が出ないもので……俺のパンチは翔に易々と止められてしまう。
俺と翔の距離がほぼゼロになった時に、俺は昔河木にも放った股間蹴りを放つ。
この技は一見稚拙に見えるが反応がしにくく、たとえ反応できても防御しにくい上に急所を攻撃できる中々有用な攻撃なのだ。
「『それは』諸刃の剣だぜ」
翔は自らの太ももを密着させ俺の足を挟み、挟んだ足をで両手で抑える。そうなると俺の片足は翔の両手に固定された状況になり……
がら空きになった俺のもう片足に――翔の足払いが入り、俺は転ばされた。
仰向けに倒れた俺に――翔の剣が振り下ろされる。
――早い。俺がいくら攻撃してもそれに合わせてくるし、その上で俺の動きを読んで行動してる。
俺も相当高い身体能力を持っているつもりだったが、その俺と同等レベルの力を持っているのだ。この翔という男は。
「蘭次さん!!!」
大山が大きな声を上げる。その声は本当に俺を心配してくれていて、だからこそ、俺は負けられないという思いが強くなって……
俺は、両手を構える。振ってくる剣を前に。
今ここで、生きるためでもあり、大山を守るためにも。




