46 単純な力比べ
宙に放り出された魔崎を、俺は抱き寄せる。
今の高さは二十メートルくらい。このまま落ちていったら命は無いだろう。
「クソッ……これじゃどっちも死んじまう」
俺は下に視線を向け地面を見るが……何も生えてない土が広がっているだけ。やはりこのままだと無事ではいられないだろう。
だが、方法は――無い。周りに掴めそうなものは無いし、ただこのまま落ちていくことしか……
(でも、大山の命だけは……!)
大山は俺達を尾けた結果攫われてしまった。だから自業自得と呼ばれても仕方ないかもしれない。
だが、こいつは俺達に憧れてるんだ。憧れてられてる以上、この大山の命は助けなきゃいけないってもんだろう。
俺は大山の抱えてる位置を上に引き上げる。俺が落ちてから続くように大山が落ちるように。
これでも大山は救えないかもしれない。それでも俺は奇跡を願って。
「頼む……ここで死なせて……たまるかよ!!!!!」
茶色の土が、目の前に迫って――
「生き……てる……?」
生きてる。異世界にまだ居る。しばらく気を失ってたらしいが、こうして地面の感触も感じる。
「ら、蘭次様!!」
「……大山?って、何も『様』つけなくても……」
「……えっ?ええ?あれ、私……」
大山は俺の言葉に戸惑ってから自分の体を見回す。随分焦っているな。
「お、おい大山、落ち着け」
「あ、はい……」
スーハーと大山は息を大きく吸う。
「それで……ここはどこですか?私、確か……」
「お前は敵に攫われたんだ。んでまあ色々あって……今、ここにいる」
落ちる所とか色々で済ませていいものかわからんが、面倒くさいからいいやもう。
「ら、蘭次さんが助けてくれたのですか?」
「いいや、俺が助けたような物よ」
俺が口を開く前に、誰かがそう言った。俺がその方向に振り向くと――
「ああ?女だけ生きるようにしたんだが……運がいいな坊主」
「坊主?生憎俺にはちゃんとした名前がある。だがそれを言う前に……お前から言え」
今のこいつの言葉、『女だけ生きるように』つまり、俺は死んでも良かったという事。
そして、さっき『兄貴』が大山を落としたこと……
こいつが兄貴の協力者だと思えば辻褄が合う。
「まあ教えてやろう……俺の名前は美永翔だ」
美永翔――?
その響きに俺は眉を潜める。その名前、どこかで……
『美永凜よ――』
(――凜!!)
そうだ。凜のフルネームは美永凜。こいつと同じ苗字……!
「さて、まずお前は……ぶっ殺す」
戦いの次にはまた戦いか、難儀だな




