45 敵の陰には新たな敵
――俺達は、『兄貴』を挟むような位置についた。
足下には、速攻でやられた兄貴の手下が消えていった。
今この空間にいるのは、意識を失っている大山、兄貴。そして椎名と俺だけだ。
「いいのか?」
俺は兄貴にそう問いかけた
「何がだ」
「今の状況は二体一。人数だけで勝負が決まるとは言わないが、俺の動きも見ているはずだ。その中でお前が勝てる見込みは無いといってもいいだろう。俺達はあくまであいつを取り戻せればいいんだ」
大山を見ながら俺は言う。だが――
「ハッ、それで『はいそうですか』と言うやつがいると思ってんのか?」
……まあそうだよな。
「なら――行くぞ」
剣を斜に構え兄貴に斬りかかる。それに対し兄貴は手に持つ刀で弾こうとするが、
「――!グッ!!」
逆に兄貴の刀が押し込まれ、態勢を崩してしまう。
俺はこの世界では高い戦闘能力を有している。大体の人間は俺との単純な力比べでは負けるほどには。
「もらった!」
ここぞとばかりに俺は攻撃に行く。態勢が崩れてがら空きになった兄貴の左肩に剣を――
(……力が、抜けっ……!?)
俺はその場に膝をついてしまう。立つことが出来なくなってしまったのだ。全身の筋肉が、まるで電流を流されたように動かない。力が……入らない……!
「椎名君!避けて、早く!」
椎名の声に目を動かすと、兄貴の刀が頭上にあった。
「しまっ――」
避けなくては。そう思って体をよじろうとするが、全く動けていない。喋ったりするくらいなら出来るが、今頭上にある刀が俺に振り下ろされるまでに避けるのは……
(無理だ……!)
完全に油断していた。異世界戦でも勝ちまくっていたから、俺は油断していたんだ。そう簡単に俺に勝てるはずもないと。俺はバカだ。相手の能力を知らないから慎重に行くべきだとわかっていたはずなのに。
(やられた……!)
反射的に目を瞑る。
――が、痛みは感じなかった。
代わりに焼けるような熱風を肌に感じ、俺は目を開く。
「何あんた、まさかやられそうだったわけじゃないわよね?」
「り、凜……!?お前、魔物の道に……」
「……?ああ、さっき通ってきた道にいた魔物の事?あれならもう全部倒したわよ」
な……なんちゅう強さだ。さすがは凜だぜ。
俺は素早く兄貴の射程圏外に位置をとる。体はもう元通り動けるようになっていた。
(どうやら、兄貴の能力は……『触った物の力を一定時間失わせる能力』だ。大山が攫われた時も兄貴は俺に触れていたしな)
そして、その能力は|触れない魔法には使えない《・・・・・・・・・・・・》。もし使えるなら、凜の魔法は失われるなりされているはずだが、その様子は無いからな。
つまり、魔法を使える凜が出て来た地点で、兄貴に勝ち目はない。
――それを兄貴も理解したのか、攻撃を仕掛けてこない。
「……来ないなら、その子を返してもらうぜ」
あくまで目標は大山の奪還だ。ずっと兄貴と睨み合ってる訳にもいかないし、何らかのアクションを入れてもいいだろう。
俺は兄貴の様子を注意しながら、大山に近付く。一歩、二歩……と、大山と確実に距離を縮める。
(……っ?)
動かない。兄貴が全くと言っていい程動かない。何故だ、何故動きを見せない。
そもそも大山を攫ったのに、それを取り戻されそうなのに動かないなんて、多少は焦ったりするものなのに。何故――
「ああ、ひとつ教えてやろう。その女の眠っている場所だが、元々は無いんだ」
兄貴が呟くように言ってきた。
――無い?『場所が無い』元々は、無かった場所……
「つまり――今持ってるスイッチ一つで――」
「……大山!!!」
まさか、大山がいる場所は、まさか
「――脆く崩れる」
――
――――大山が、宙に離れていく。
この俺達がいた空間の外は、高さ二十メートルくらいの空中だったのだ!
「うおおおおおおお!!!!!!」
させねえ。大山をこんな高さから地面に落とさせるなんて。
俺が――絶対にさせねえ!!!!!!!




