40 なぜこの世界に居るのか
「蘭次様、異世界への転送、完了です!」
「ありがと」
一週間ぶりの異世界。だが魔崎が鬱陶しかったので久しぶりという感覚は無いが。
「それでは蘭次様、私は仕事があるのでこれで失礼します」
「ん?珍しいな。何かあるのか?」
「はい。なんだか異世界戦の会場の不具合が思ったより深刻らしくて……手伝っていきます」
この一週間くらいは散々付きまとってきた癖に……まあいいか。
「そうか。まああくまでお前は天界の人だからな。無理にこっちにいる必要はないよな」
そう、あまりにも魔崎と長く過ごしているせいで麻痺しているが、俺たち人間とは違うベクトルで生きている存在なんだ。あまりこっちと同じにいるのもなんだろう。
「さて、凜たちと合流しないと」
確か合流場所は……今は色々と設備を直しているらしいが、異世界戦の会場だったな。
俺は地面を踏んで歩き出す。
(しっかし……本当によくわからないなこの世界は)
人間の為に天界人が人間の魔力を借りて作り出した世界。そういう感じらしいんだが……
人間の為に世界を作るって胡散臭いんだよなあ。まあそこら辺の考えは俺馬鹿だからあまり考えないよーにしてますけど。
「……っと!魔物か」
目の前には一体の小さい翼を生やした小悪魔のような敵がいた。
その魔物は氷の魔法を放ってきたが、威力も速度も大したことない。
「せめて当たるスピード出せ……よっ!」
魔法を避け一刀のもとに切り裂く。この程度の敵、相手にならない。
「とはいえ、この世界に最初に来たときはこの程度でも勝てなかったかもな」
あの時はアルミの剣使ってたしな。
(武器……か)
そういえば前に凜が言ってたな。武器を生み出せるようになれって。
やり方は……魔法と一緒で、生み出したいものに精神を集中させる。だったな。
一回やってみるか。これから使えるかもしれない。
俺は目を閉じ、生み出したい武器の事だけ考えるようにする。
(集中……集中……)
「出でよ!槍」
……
…………
「無かったことにしよう」
まあ、そう簡単には出ないよな。
周りには誰もいなかったが、少し恥ずかしくなりつつ荒野を歩く。そして――見えてきた。異世界戦の会場が。
「やっと着いた――おおおぉぉぉ!?」
急に横から雷の魔法をぶつけられそうになり慌てて避ける。また魔物か……?
「……凜?」
俺の仲間、凜だ。決して魔物ではない。
「久しぶりね。蘭次」
久しぶりって、つい二日前くらいに会っただろ。と言いそうになったが、怒られそうなのでやめた。
「ああ、久しぶりだな。所で凜、さっき俺に魔法を――」
「じゃあ、椎名とも合流しましょう」
「露骨に無視した!?」
相変わらず酷え女だ。
「そういえば凜知ってる?」
「知らね。別に知りたくもねえ」
「そこは『何が?』って言いなさいよ。……ミッションシステムの事」
「みっしょんしすてむ?ああ、何か魔崎が言ってた気がする」
確か……他の人間か天界から送られた依頼を受けて、それを遂行して報酬を貰うとかだったかな。
「ミッションシステムは、人間か天界から依頼を受けて、それを行って報酬を貰うシステムよ。
あ、合ってた。意外と魔崎の話聞いてんだな、俺。
「でそのシステムがどうかしたのか?」
「――待って、椎名がいたわ」
本当だ。向こうで手を振ってる。
「蘭次君、凜ちゃん、久しぶり」
椎名のさわやかな笑顔。ほんっとこいつイケメンだな。
「で、会ってすぐになんだけどさ……ちょっといいかな?」
「……?何かあったのか?」
「いや、そのね……まあ会わせた方がいいか。おーい、出てきてくれないー?」
椎名が近くの木に向かって手を振る。すると木の陰から……
(……女の子?)
いや、背は低めだがそんな低い年齢という訳ではなさそうだ。なんというか、誰かに似ているような……。
「えっとね……実はこの子が――」
「あのっ!」
椎名の声を遮るようにその子が声を上げる。
「み、皆さんはこの前の異世界戦に出てましたよね?」
「え?ああ、そうだけど……」
何?ファン?困るなあそういうのは事務所を通さないと……
「本当ですか!私、あの戦い見て、感動しちゃって……」
やっぱりファンみたいだ。サインとかせがまれるのかな。
なんて事を考えてたのだが、その子が次に行ったのは予想の斜め上で――
「それで、お願いなんですけど……」
一瞬口ごもってから、決意したように言った。
「私を、あなた達のチームに入れてください!!」
凜の座を脅かす輩が現れた……これはまずい……




