39.5 花火
「お前、もしかして……凜じゃないか?」
「はあ?確かに私は凜って名前よ。でもあなたになんか会ったことないわよ?」
いや、その声と口調……完全に凜のものなんだが。
「ならこれはなんだ!」
俺は魔法表を凜に見せる。
「……あんた、こんなもの書いてるなんて……中二病?」
「ち、違うわ!これはここに落ちてたもので――」
「はいはい、中二病ね」
こ、こいつ……意地でも認めないつもりか。
「ていうかあんた、見ず知らずに人に自分の中二病アピールして知りあい面するとか……大丈夫?」
「大丈夫だ!てかいつまで白を切るんだよ!」
「大丈夫なのね。じゃあ、バイト頑張って」
そう言って魔崎は何処かに行ってしまった。
「逃げられたぁぁぁぁ!!!!」
というか、最初見たときはあんな弱々しい口調だったのに、俺を見た瞬間強気になるとか凜以外に誰がいるんだよ。
それからも、のらりくらりと逃げられ……
「もうバイト最終日かー。がっつり働いたから早く感じたなー」
「そうだな」
もう、ムキに凜の正体を暴く必要はないのだろうか。そもそも冷静に考えたら、本当に凜かどうかもわからんし。
「皆さん、本当に頑張ってくれましたね。祭りが行われている間は特にやることが無いので、祭りに行ってきてもいいですよ」
「本当っすか!?よっしぁ行こうぜお前ら!」
「佐藤……はしゃぎすぎ」
まあ、とりあえずは祭りを楽しむか。
「さーて食うか!まずは屋台の飯をあらかた……」
「バイトしにきたのにその金を現地で落とすのか……」
まあ、屋台は安いし大丈夫か。
「おい蘭次!お前ずっと女将さんの娘をチラチラ見てたけど、お前あの子が気になってるのか?」
「は?いやいや何を言って――」
「こ・くはく!こ・くはく!」
「てめえら……殺す」
田中たちと追いかけっこしたりして……
(なんか……現実世界に居ても、意外と楽しいんだな)
友達とバカやるのは好きだし、今回のバイトもよかった。でも俺は、今までに何十万回も異世界に行きたいと思っていて……
(ただ、異世界も現実世界も、同じような気がするんだ)
ただ言えることは、どっちも捨てたもんじゃないって事。
「おーい!蘭次ー!こっち来いよー!」
「ああ」
山田に呼ばれて足を動かそうとしたその時、視界の横に見覚えのある姿が。
……凜?あんな茂みの奥へ……何するつもりだ。
気になるな、ついていってみよう。
茂みを抜けた先には……
(猫?)
ニァーンと小さく鳴く猫がいた。
「なるほど、ここの猫に餌を与えるために茂みに入ってっ――」
「殺す!」
さっきの追いかけっことは比にならないさっきが襲う。ついでに拳も。
……が、全然痛くない。
「おいおい凜、ここは異世界じゃないんだぜ。そんなヘナチョコパンチ、聞くわけないだろ」
「ふん……後で覚えてなさいよ」
猫に餌を与えるため後ろを向いた凜は、もう否定しようとはしてなかった。
「まさかお前がここにいるとはな。あそこで働いてるのか?」
「まあ話は……別にいいでしょ」
今、話題を嫌ったな。まあ凜の事だからうまくいってない事情もあるんだろうけど。
「……あなた、覚悟はいい?」
「覚悟って、何の覚悟だよ」
「異世界よ。あなたが考えてるほどあの世界は甘くない……地獄を見るわよ」
いつもの凜の鋭い目が俺を見つめる。
「一度突っ込んだ足だ。しかも自分からなんだ。引き返さないよ」
「……そう」
花火の音がした。それは見事で大きい花火だった。
俺は約束をした。お返しに凜を助けると。
「いつかあの恩は返すからな」
「なるべく早くしなさいよ?」
花火の音は、どこまでも続いていた。
ということで次から新しい感じで行きます!
どうしよーかなー。やっぱり凜を目立たそう!
その次は……これも凜を目立たそう!
この次(ry




