39.5 バイト
――学校からの帰り道の事――
「おーい丹川ー!」
「ん……佐藤、田中。それに山田。なんか用か?」
俺のクラスメイトが話しかけて来た。こいつらは前に異世界でボコボコにした(といっても俺の記憶が創り出したものだが)ので会うたび俺は気まずさを感じてしまう。
「お前、今度の四連休暇か?」
「四連休……?まあ、暇っちゃ暇だが」
親友と呼べるほど仲がいいわけではないが、俺とこいつらは結構話す方だ。
「じゃあ、これ行かないか?」
田中がスマホで見してきたのは……『臨時バイトの求人』バイトか。
「で、早い話、お前たちと一緒にこのバイトに行けと」
「そーいうこと!四人まで募集しててさ。三人だけで行くってのもアレだし、お前を誘ってみようって事になってな。どうだ?一緒に行かないか?」
うーん……確かに金は無いし、どうせ四連休は暇だし、例の『異世界戦』までも日が開いてるからなぁ……
「……わかった。今から申し込んでも間に合うのか?」
「大丈夫さ!どうせ他に行く奴なんかいねえよあんな山奥に」
「山奥?」
「ああ、田中は今一人暮らししてるらしいんだけどさ、田舎の方の実家からバイトで何人か連れてきてくれないかって話になったんだ。なんでも、年に一度の祭りをやるから忙しくなるみたいでさ」
なるほど……祭りで忙しくなるからバイトを募集してるのか。
こうして、俺達はバイトに行くことになり……
――――
「ついったー!」
平凡苗字三人衆(今名付けた)の中ではハイテンションな方の佐藤が声を上げる。
「意外と遠かったな」
「だってこんな田舎だもん」
田中が少し懐かしむように言う。その言葉は決して皮肉ではないみたいだ。
俺達がバイトするのは旅館。結構大きい旅館らしいが、そこで力仕事を中心に俺達は働くとの事。
のどかな道をしばらく歩いてると……
「着いたぞ。ここだ」
「あっこれか……ってでか!」
予想より大きい旅館が目の前に現れた。
「俺の母親はここで働いてる人の内の一人だ。結構働いてる人数も多いんだぜ。まあそれでも今回はバイトを募集してるんだ。なんたって年に一度の祭りだからな。結構有名な祭りだから他の県からも人が来るんだと」
「へー……」
「お邪魔しまーす」
「はいはい、よく来てくれましたね皆さん」
旅館に入ると、女将さんらしき人が迎えてくれた。
「あなたたちが働きにきた子たちね?ならまずは自己紹介をしないといけませんね。私は克木洋子といいます」
「俺は佐藤拓夢です」
……
……
「丹川蘭次です」
「はい、それじゃあ今日から三日間よろしくね。ちゃんと働いてくれたらお給料増やしちゃうかも」
50くらいの女将さんなんだろうが……まだまだ若く見えるな。
「そうそう。内の娘も紹介しましょ。凜ー!」
凜という言葉に俺は少し反応する。凜……まあ、それくらいの名前は沢山いるし、そもそも苗字が違うじゃないか。何考えてんだ。
「は、はいー!何でしょうか!」
奥の方から走りながら女の子が走ってきたが、遅いな……なんか腕と足が同時に動いてるし。
「今日から三日間ここで働く皆さんよ。挨拶しなさい」
「えっ、あっ、よろしくお願いします!」
なんか……大丈夫かなこの子。ちょっと危なっかしいぞ。
そんなこんなでバイトが始まり……
俺たちは雑用や片づけを中心にやっていったのだが……旅館が結構広いのもあり、結構大変だ。異世界の時の身体能力なら、結構楽なんだけどなー。
「じゃあ丹川くん。そこ終わったら向こうの部屋を片付けてくれる?」
「はい」
俺は歩いて部屋に向かう。
「うわ……結構汚いな」
入った部屋は思ったより物が散乱していた。それらから必要そうなものと完全なゴミを分ける。わからないものは仲居さんに聞く。それを繰り返していると、足で紙を踏んづけていることに気づいた。
「ええと……これは……」
――え。
なんでこんな物がここにあるんだ。
その紙には、『ファイアー』『エアロ』など、基礎の魔法が書かれていた。
「これ……魔法表じゃ」
まさか、この旅館に異世界に行ったことがある奴がいる……?
とにかく、これを――
「その部屋で何をしているの!」
「いや、これは仕事でやってるから違うんだよ凜!」
あ、今凜ってつい言っちゃった。
いやまて、この声、この強気な感じ。
まさか――
冷汗がたらいと顔を滴る。
「凜……!?」
まさか……違うよな。な?
今回は39.5話です!あまり異世界だらけでも困るんで、唐突ですがこのような話を書かせてもらいました。
それでこの話は前編と後編に分かれていて、次で39.5話が完結します。
間の話なのに前編と後編に分かれているとはこれいかに()




