38 決勝戦に一番強い敵が出るのはお約束だ
「我の……負けだ」
この大会は、戦闘不能になるか敗北を認めると勝敗がつく。今一ノ関は、敗北を宣言した。
「まさか嘘をついてくるとはな……完全に騙されたぞ」
「いや、半分嘘だが半分事実だ。実際俺のチームに椎名という男はいる。何故か今ここにはいないんだがな」
結局椎名は現れなかった。まあ勝ったから良しとするか。
「そうか……しかし、強いな。敗北を味わったのは、貴君と針田だけだ」
(針田……!?)
「お前、針田と戦ったことがあるのか!?」
「ああ、この『異世界戦』の三日前だったか……名を名乗った後突然襲われてな。多種多様な魔法を使われ為す術もなくやられた。しかも罵詈雑言を浴びせながらな」
あいつ……魔法の実験台とかストレス解消の為に襲ったな。
「そういう貴君こそ、奴を知ってるのか?」
「お、おう。細かい事は省くが、あいつは俺が倒した」
俺がそう言うと、一ノ関は驚いたように目を見開いた。
「そうか……針田を……」
お互いの体が光に包まれていく。異世界戦の元の会場に転送されるんだろう。
「貴君に……名を問いたい」
「……丹川蘭次だ」
「丹川よ、貴君は何でもできる。決して諦めるな」
一ノ関が言ったのは、ありきたりな励ましの言葉だったが……しかと胸に響いたぞ。強者が言った言葉は。
「なあ一ノ関、最後に聞かせてくれ。何であいつは……犬って名前なんだ?」
「ん?それは簡単だ――我は、ずっと犬を欲しかったのさ。子供の時からな」
「は?」
え、ええ……ただの犬好きかよ……
――
――――
「つまり、転送装置のミスで椎名は全く違うところに飛ばされたのか?」
「そういう事になるね」
俺が元の会場に戻ると、椎名と凜がいたから、色々事情を説明してもらった。
椎名が言うに、この会場から戦闘場所に転送する際、不具合で椎名は全く関係ない場所に行かされたらしい。
「すまない。これは私たちの責任だ。許してくれとは言わないが、謝罪だけでも……」
中谷さんと魔崎が深々と頭を下げてくる。そんな気にしなくていいのに。
「いえ、勝てたんだから問題ありませんよ」
などと言っても、椎名がいたら全然違っていたのは間違いない。……だが、終わった事を気にしても仕方ないだろう。
「……」
あ、今凜が顔を背けた。そうだ、俺が一番感謝しないといけないのは凜だった。
「凜、本当にありがとな。お前があの時――」
「私がバカだったわ。あんたなんて助けなくても勝てたもの」
うわあ、ほんっと素直じゃないなコイツ。せっかく人が感謝してんのに……。
「次は私を助けなさい。わかった?」
「え……あ、ああ、もちろんだ」
と思ってたら、意外な言葉が出て来た。助けなさいとは……そうだな、いつまでも凜や椎名に頼りっぱなしってわけにもいかないからな。
(後は……決勝戦か……!)
どんな敵が来ようが、今の俺達なら勝てる。気持ちも昂ってきた。
「よし!後は決勝戦、頑張ろうな!」
「うん。でも決勝戦は一か月後だけどね」
え。
「し……椎名、今、なんて……?」
「え、だから――」
俺今、気持ちが昂ってるんですヨ?声かけとかしちゃって、よっしゃ行くぞー!みたいになってたのに、まさか……
「『異世界戦』の決勝戦は、一か月後にあるんだよ」
凜、おかえりぃぃぃぃぃ!!!!
あー良かった。これでこれからも頑張れる。




