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そう簡単に異世界を味わえると思うなよっ!  作者: はれ
第6 一ノ関歩
39/97

38 決勝戦に一番強い敵が出るのはお約束だ

  「我の……負けだ」

 この大会は、戦闘不能になるか敗北を認めると勝敗がつく。今一ノ関は、敗北を宣言した。


 「まさか嘘をついてくるとはな……完全に騙されたぞ」

 「いや、半分嘘だが半分事実だ。実際俺のチームに椎名という男はいる。何故か今ここにはいないんだがな」

 結局椎名は現れなかった。まあ勝ったから良しとするか。

 「そうか……しかし、強いな。敗北を味わったのは、貴君と針田だけだ」

 (針田……!?)

 「お前、針田と戦ったことがあるのか!?」


 「ああ、この『異世界戦』の三日前だったか……名を名乗った後突然襲われてな。多種多様な魔法を使われ為す術もなくやられた。しかも罵詈雑言を浴びせながらな」

 あいつ……魔法の実験台とかストレス解消の為に襲ったな。

 「そういう貴君こそ、奴を知ってるのか?」

 「お、おう。細かい事は省くが、あいつは俺が倒した」

 俺がそう言うと、一ノ関は驚いたように目を見開いた。

 「そうか……針田を……」

 

 お互いの体が光に包まれていく。異世界戦の元の会場に転送されるんだろう。

 「貴君に……名を問いたい」

 「……丹川蘭次だ」

 「丹川よ、貴君は何でもできる。決して諦めるな」

 一ノ関が言ったのは、ありきたりな励ましの言葉だったが……しかと胸に響いたぞ。強者が言った言葉は。


 「なあ一ノ関、最後に聞かせてくれ。何であいつは……犬って名前なんだ?」

 「ん?それは簡単だ――我は、ずっと犬を欲しかったのさ。子供の時からな」


 「は?」

 え、ええ……ただの犬好きかよ……


 ――


 ――――


 「つまり、転送装置のミスで椎名は全く違うところに飛ばされたのか?」

 「そういう事になるね」

 俺が元の会場に戻ると、椎名と凜がいたから、色々事情を説明してもらった。

 椎名が言うに、この会場から戦闘場所に転送する際、不具合で椎名は全く関係ない場所に行かされたらしい。

 「すまない。これは私たちの責任だ。許してくれとは言わないが、謝罪だけでも……」

 中谷さんと魔崎が深々と頭を下げてくる。そんな気にしなくていいのに。

 「いえ、勝てたんだから問題ありませんよ」

 などと言っても、椎名がいたら全然違っていたのは間違いない。……だが、終わった事を気にしても仕方ないだろう。


 「……」

 あ、今凜が顔を背けた。そうだ、俺が一番感謝しないといけないのは凜だった。

 「凜、本当にありがとな。お前があの時――」

 「私がバカだったわ。あんたなんて助けなくても勝てたもの」

 うわあ、ほんっと素直じゃないなコイツ。せっかく人が感謝してんのに……。

 

 「次は私を助けなさい。わかった?」

 「え……あ、ああ、もちろんだ」

 と思ってたら、意外な言葉が出て来た。助けなさいとは……そうだな、いつまでも凜や椎名に頼りっぱなしってわけにもいかないからな。

 (後は……決勝戦か……!)

 どんな敵が来ようが、今の俺達なら勝てる。気持ちも昂ってきた。

 「よし!後は決勝戦、頑張ろうな!」

 

 「うん。でも決勝戦は一か月後だけどね」


 え。


 「し……椎名、今、なんて……?」


 「え、だから――」

 俺今、気持ちが昂ってるんですヨ?声かけとかしちゃって、よっしゃ行くぞー!みたいになってたのに、まさか……


 「『異世界戦』の決勝戦は、一か月後にあるんだよ」


凜、おかえりぃぃぃぃぃ!!!!


あー良かった。これでこれからも頑張れる。


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