37 いつも突然現れるアイツ
終わった。
敵――犬と呼ばれたソイツの剣は俺の頭上に来ている。右にも、左にも避ける事は出来ない。
完全にミスった。俺はムキになっていたんだ。一ノ関の純粋な魔力が創り出したバカみたいな強さの『犬』に真っ向からぶつかろうとしたのがいけなかった。倒すのは犬ではない、本体である一ノ関の方だ。
この大会――異世界戦は、後は俺の頭に剣が振り下ろされて――
(されて……)
「たまるかよ!!!」
自分の戦闘能力を最大限に活かせ!決して諦めるな!今まで防御に使ってた剣は弾かれて、右にも左にも避けれなくても、必ず何処かに……何処かに勝つ道があるはずだ!
「うおおおぉぉぉぁぁぁ!!!!!」
振り下ろされてくる剣に、両手を――
――で、出来た。
到底無理かと思ったし、空想上での技かと思ったが、俺の高い伝統能力のおかげで、やった。取れた。
「なっ……!」
一ノ関が驚嘆の声を上げる。それはそうだろう。俺だって出来るとは思ってなかったよ。
「真剣白刃取りだと……!?」
そう、真剣白刃取り。日本でも多くのフィクション漫画などに出てくる技だ。漫画なんかだと頭上に振り下ろされる剣を両手で挟んで止めるが、現実の白刃取りは剣を避けた後に挟む技だったらしい。もちろん俺がやったのは前者だ。どれもこれも高い戦闘能力のおかげだ。そして、一ノ関を倒すのに、この戦闘能力の違いが仇となる。
一ノ関は完全に気を取られたのか、今俺が挟んでいる剣に伝わる力がフッと消えた。
(――来た!)
俺は挟んでいる剣を反転させる。力が少なくなっている犬相手なら簡単に剣は犬の手から離れた。
「……しまっ……!」
「椎名!今だ!」
椎名――。俺達と共に戦いを続けているアイツが、何故かずっといなかったんだ。俺はどっかに隠れているものだと思ったが、どうやらそういうわけでもないみたいだ。だから、この声は椎名に呼び掛けた訳ではない。
「――!?味方が近くにいるのか!?」
俺がかけたブラフに、一ノ関は簡単に引っ掛かってくれた。あいつの意識はもう、俺には向いてない!
俺は犬から取った剣を、刃を一ノ関に向けてやり投げの様に腕を振るう。
(一ノ関にこの剣を、ぶん投げる!)
「いっっけぇぇぇぇ!!!!」
俺が投げた剣は綺麗に飛んでいき、一ノ関の胸筋の辺りに突き刺さる。
「がっ……あっ……」
苦しそうな声を上げる一ノ関。今まで自分に攻撃が及ぶことなんて無かったんだろう。その痛みはかなりキツいはずだ。
犬に弾き飛ばされた剣を拾い、矢の様に一ノ関の元に走る。一ノ関は犬を防御に使おうとしたが、まるで動かせてなかった。
「これで……終わりだ!一ノ関歩!」
俺は剣を一ノ関の腹部に深々と突き刺す。
――今ここに、準決勝の勝敗が決まった。




