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そう簡単に異世界を味わえると思うなよっ!  作者: はれ
第6 一ノ関歩
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35 猫派とか犬派とかあるけどそれは置いといて

.  犬……人型なのに……犬。

この……一ノ関とかいう人、何かよくわからない人型の生命体を創り出したみたいなんだが、そいつの名前を『犬』とおっしゃりやがった。


 いや、これには計り知れない理由があるんだろう。

例えば、この一ノ関とかいうやつはずっと現実世界で犬を飼っていた。しかし異世界に来る時に犬は連れていけない事になり。魔法とかで作り出したこいつを『犬』と名付けたのかも。

 ……だったら犬型にしろよと言われればそれまでだが。


 (……ん?魔法?)


 まさかと思うが、この犬って……魔法で作られてるのか?

 いや、そう考えると全て辻褄が合う。ていうか、それ以外にあり得ないじゃないか。

 (まだ手首の痺れも残ってるし、時間稼ぎの意味も入れて――)


 「あのさ」

 魔法かどうか聞いてみるのもいいかもしれないな。

 「何か?」

 「その、犬……だっけ。それさ、お前……一ノ関の魔法で作られてんの?」

 俺がそう聞くと一ノ関は瞼を頷くように閉じて、

 「いかにも。細かい事情は省くが、我がなり損ねた物の代わりでもある」


 「代わり?」

 「我は逞しくなりたかった。しかし、それはこの世界に来ても叶わなかった。……そして、我が相棒が代わりに我の夢を叶えてくれた」

 一ノ関は俺にというより自分の記憶を振り返るように呟いていたが……

 どうやら一ノ関は河木みたいに筋肉ゴリゴリのマッチョになりたかったみたいだな。それでこの世界に来たがどういうわけかマッチョになる妄想ばかりしていたのにマッチョではなかった。

 しかし、その代わりか強大な精神力を持って、この犬――自分の願いを魔法で叶えたんだ。

 

 (俺とは全然違ったタイプのように見えて……意外と似ているのかも)

 戦う妄想ばかりでその回数も異常だったためこの世界で高い戦闘能力を手にした俺と、妄想とは違う形だが力の強い自らの代わりを生み出した一ノ関。しかもその戦闘力は、無防備とはいえ凜を一撃で倒す程。

 だが舐めんな。妄想なら他人に負ける気はしねえよ。これが異世界じゃなかったら恥ずかしすぎるが。


 「でも、剣が無かったらその力も生かせないんじゃないか?」

 「侮るな。剣程度なら――」

 一ノ関が少し体に力を籠めると、犬の手に剣が再び宿る。

 (まあ、そうだよな)

 でも、今ので分かったことがある。一ノ関が精神力を集中させて純度の高い物質を作れるのはこの犬だけみたいだ。犬以外でも出来るなら剣は折れないだろうしな。

 「もう一度行け――幕無漸」

 一ノ関が右手をこちらに向け犬を近づかせてくる。おそらくさっきと同じように攻撃してくるんだろう。


 「同じ攻撃が二度通用するとでも思ったか?」

 そう口では言っても、さっきはなんとか耐えて奇策で状況を打破しただけだ。むしろこっちの方が二度同じ対処ができない。

 「あまり強気でいるというのも考え物だぞ少年。実際に先程押し込まれていたのは少年の方だろう?」

 あーあ……バレてるし。

 犬が剣を振るってくる。今度は力を逃がすように剣で防御する。なるべく手首などにダメージを与えないためだ。

 (さて……どうしたものか)

 剣で攻撃してもガチガチの体を貫けるとは思えないしな。それこそさっきみたいに振りかぶってもっと強く切りつけたらわからないけど、そんな隙が出来るとも思えない。

 うーん。色々と探ってみるしかないか。

 

 向こうが振るってきた剣を横に薙ぐように剣で防御する。そして剣と剣がガッチリぶつかり合って硬直が起きたところに――


 「サンダー!」

 

 そう、魔法。前に使ったのは校長戦……だっけな。随分とご無沙汰だが、ここで使う。

 俺は魔法をうまく使えるタイプではないらしく、唱えても『想像したものが価値を落としたように現れる』ようになってる。つまりファイアーを唱えたらワラとライターが出る感じだ。

  サンダーは雷の魔法。価値を落として出るならば……


 俺はスタンガン(・・・・・)を剣を持ってない方の左手に持ち

 「食らえっ!」

 犬の首筋に当てる。だが……

 

 (まあ効かないよな)

 全く動じない。そりゃそうか。

 犬の体を蹴って距離をとる。そしてすぐさま――

 「ウォータ!」

 

 水の魔法だけに水が入ったバケツを犬に投げつける。でもやっぱりなんともないようだ。

 (クッソ……なんか効き目のあるもんはねえのかよ)

 犬が攻撃してくる。少し体勢は崩れたがなんとか防いだ。

 「こっの……ファイアー!」


 すぐさまライターに火をつけ相手に押し付ける。……が、そもそもライター程度の火力じゃどうしようもないだろう。


 「ああクソ!ならどうすりゃいいんだよ!」 

 手詰まりになって思わず大声を出す。ここまで何も効かないなんて……そもそも魔法で出るものがしょぼすぎる。

 


 「何も効かないぞ、犬には何も」

 一ノ関の声。また随分強気な事を言ってきた、さっき俺にも注意したばかりなのに。

 「適当ぬかすな。そんなことが出来るわけ――」

 「嘘ではない、この犬は世界で最も純度の高い魔法だ。実際に我は犬と剣以外の物質を出現させることが出来ない。なぜなら、犬の事ばかり考えたせいで他の事に集中できないからな」


 「は、はぁ?」

 何を言ってるんだ。そんな訳――

 そう続けて言おうとしたが、言葉が出なかった。一ノ関の目は、とても嘘を言ってるようには見えないからだ。本当に純度が高い。そう信じてしまうような目を、一ノ関はしているんだ。


 

  

 「さて、その存在に勝てると思いますか?少年――」


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