29 いけ!空間を切り裂き、今だ!会心の――
「――次のチャンス?」
「その前に静かに身を潜めて」
椎名に言われて慌てて身を潜める。
「――ちょっと騒ぎすぎたかな。蘭次君、よく周りの空気を聞くんだ」
空気を聞く?
そう言いそうになって口を閉じる。そうだ、あんまり騒いだら敵にも場所がバレてしまう。
椎名は目を閉じ、ゆっくりと腕を横に動かす、そして何かを飛ばす。
その目にも見えないような何かは、木に当たったのか、パキッという小さな音を生じさせた。
「――!――」
(……!)
『聞こえた』今、音は無くとも何処かにいる敵の意識が動いてのが空気に響いた。
肩を優しく触れる感触がした。触ってきたのは……椎名。椎名は口に手を当てながら紙を渡してきた。
『次相手が何か音を出した瞬間に音源に向かって攻撃を仕掛ける。躊躇せずに一気に』
紙にはそんな事が書いてあった。
こ、こいつ、何かを投げてから今の間にこんなものを書いてたのか、全然気づかなかったぞ。
俺は頷き、凜にも紙を渡そうとするが、凜は全てをわかってるかのように手でオーケーマークを作ってた。
(次の……音……)
周りは恐ろしいくらいの静寂、そんな中ずっと集中するのは中々キツいものがある。
黙っていると色んな考えが頭を巡らす。さっきの凜の話、この敵はどんな能力があるのか、そして……中川椎名……苗字が二つあるような名前のこいつは、一体何者なんだ。
――そういえば、俺達が針田と戦ってる時、椎名はどうやってあそこを見つけたんだ?中谷さんが一緒にいたとは言え、あの針田がバレるような所に俺達を拉致するか?
それに椎名は戦いが苦手と言った。だが椎名はどの場面でも歴戦の猛者の様な落ち着きぶりで、しかも戦いの知識も豊富だ。戦闘が苦手だから頭でカバーするとかそういうタイプなのか?
(だめだ……全くこいつの事がわからん)
凜なんかは感情をはっきり出してくれるが、椎名は優男をずっと演じてるような――演じてる?そもそもこれがこいつの性格なのか、それか何か目的があってその性格に見せてる?
考察を重ねても理解に及ばない、どれも椎名であるようで、どれも違うような。
(待てよ?こんなに出来る奴がニート?)
疑問の糸口にもならない考えが出て来た時――
ガサッ……
(来た!)
俺は足を飛ばす、椎名の作戦の事もさっき考えていたが、なるほど有効だ。
ずっと静寂を保ってきたなか、突然激しく動けば――
(相手は委縮する!)
音に向かってがむしゃらに走る。俺はおおよその位置しかわからないが、椎名や凜はきっと正確な位置を把握したんだろう。それなら俺がやることは――
――二人が攻撃しやすいように的を作り出す。
「出てこいやぁ!!!」
さらに動揺をかけようと大声をだ――
「あっ」
それしか声が出なかった、気づいたとき俺は――
地面に顔をぶつけていた。
……
…………
こ、こけた……
木か何かに引っ掛かったか、見事にこけた。
(って、早く立たないと!近くに敵が――!)
遅かった。
30秒後、俺は人質として捕まっていた。
「凜、椎名……ごめぇぇぇぇん」
無様な人質の完成だぁ。




