24 記憶喪失とかいう子供の時何回も使う言葉
「ここだ。入れ」
澄香さんに言われて『管理所」と書かれているプレートが下げてある扉を開けて入った。
「え……」
「遅れてすみません……えっ?あれ!?椎名様と凜様!?」
――中には、椎名と凜がいた。
「やあ蘭次君。遅かったね」
「遅かったって、お前らどうしてここに居るんだよ!?」
今ここで会えたということは針田や河木から無事に戻ったのか?
「どうしてって、もう中谷さんが連れてったじゃないか」
「え?中谷さんって……?」
「……あんた、やっぱり手錠つけた方がいいな……」
「え……あ、あの凶暴女か!!」
「誰が凶暴女だこのドベ!」
「ふぐぅぅ!?」
澄香――中谷さんのローキックが膝に入る。痛ってぇ……。
でも思い出した。この人は中谷澄香さん。確か椎名の監視役とか何とか言ってたような……。
「そういえば先程は説明が足りなかったな。私は中谷澄香、この魔崎と同じように『異世界の願い叶えちゃいます部』に所属している。主に治安活動に参加することが多い。よろしく頼む」
中谷さんはサクサクと自己紹介を済ませる。前から思ってたけど、サバサバして仕事ができそうな人だなぁ……。
「それでは丹川蘭次、聞きたいことがある」
「えっ、いや俺も聞きたいことが――」
「こっちが先だ。単刀直入に聞こう。『アレ』はなんだ?」
まだ一言も喋っていない凜の指がぴくっと動いたように見えた。
『アレ』って……
「なんですか『アレ』って」
「とぼけるな。ここに居る――魔崎以外は皆見たんだ。貴様に黙秘する権利は無い。答えろ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ、俺には何の事だかわからないんだが――」
「何を言っている!お前がやった事だろう!?それをまさか覚えてないとでも言うのか!」
「――あ、ああ……」
本当に俺は覚えてない。『アレ』って、俺が何か出したってのか……?
「……なら、」
中谷さんは少し考えたような素振りを見せて、
「お前は針田達に攫われたんだろう?どこまで覚えている?」
そう尋ねて来た。
中谷さんの事を思い出したおかげで、実は記憶の殆どが戻ってきている。しっかり答えられるはずだ。
「椎名が助けに来て、中谷さんが手錠を掛けた」
「それ以降は?」
「何も……」
「……そうか、わかった」
「お、おいわかったってなんだよ。そもそも俺は何で現実世界に戻ってたんだよ!俺はこの世界で死んで――」
「いいから黙ってなさい!!」
さっきから一言も発してなかった凜が声を張り上げる。
「皆あなたの為に言わないでいるの、なんとなくわかってるでしょう?本当は知らなくていいって、それならその考えに甘えなさい!これはあなたがあなたである為に必要な事なの!!」
「な、何でそんな――」
含みのある言い方するんだよ。そう言おうとした口は閉ざされた。
凜の鋭い目が俺の顔を睨んで来たからだ。
「まあまあ落ち着いて、それより中谷さん、異世界戦の件はどうなった?」
「……ああ、それなら特例が認められた。エントリーの時間は過ぎたが、特別に参加していい」
「それはよかった。ほら皆、せっかく出れるんだからそっちに集中しようよ」
椎名に宥められて意識が背く。本当にこいつは空気が読める。じゃないけど、絶妙なタイミングで話してきやがる。どこに意識があっても聞かせられるような、そんな感覚がある。
「……そうね、そうしましょう」
「あ、ああ……」
「だが貴様ら、チーム名が登録されてないぞ。まだ決まってないなら早く決めろ」
「「「あ」」」
そういえば決め手なかったっけ。
「うーん、チーム名かぁ……」
「『男二人と才女一人』でいいでしょ」
「さらっと自分持ち上げたな凜」
「『幸せ―ズ』とか?」
「「……」」
俺と凜は思わず絶句する。こいつ、ネーミングセンスの塊もねぇ……しかも凜はふざけて言ったんだろうが、椎名は至極真面目に言っているよ。
「い、いや、それはやめといた方がいいかなあ」
「ちょっとあたし達にはあってないかなー」
「そう……僕はいいと思ったんだけど……」
椎名が珍しくがっくりした感じに言ってくる。意外なところがあるもんだな。
「そうだな……魔崎、何かないか?」
「うえっ?私ですか?そうですね……『チーム タクティクス』なんてどうでしょうか。タクティクスには、戦略や策略みたいな意味があります」
「それあんまりいい意味じゃないような……でも確かに俺達はそんな感じだなぁ」
弱点突くこと多いし。
「あんたみたいに中二病こじらせてる奴にチーム名任せたくないわ」
「中二病って……お前こそ中二病だろ!」
「なんですってこのスカタン!」
「黙れ引きこもりニート!」
「いい加減に……ファイアー!」
「ふおお!?それは反則だろう!?」
結局チーム名は『チーム タクティクス』に決まった。
次の話からアクション回です!お楽しみに!




