17 結局勝つために必要なのは『力』だ
「蘭次!ボサッとしてないで攻撃しなさい!」
「お、おお!」
凜に言われて慌てて動く。剣なら河木が魔法を食らった時に落とした。それを拾って、斬る!
「ッ……!こんななまくら、利かねェ!」
河木は剣に当たられて上等といった感じで俺に攻撃してきた。
確かに当たった所で剣は弾かれるだけだろう。でも、
「よっ――と!」
俺は攻撃をストップして河木の攻撃を躱す。
そう、今の俺の攻撃はフェイント。できた隙に河木の後ろに回る。河木には普通の攻撃は利かない。それなら――
(上から急所を叩きつける!)
俺はジャンプし、剣を逆手で両手に持ち、全体重を乗せ河木の首めがけて突き下ろす。
「なァァ!?」
河木は慌てて振り向こうとするが、体を回しきれずに左腕でなんとか庇う。
ザグゥゥ……!そんな音がして剣が河木の腕に刺さる。
全体重を乗せれば、河木の体は貫けるようだ。
人の体を刺すのは気が引けるが、実際に死ぬわけじゃない。遠慮はしない!
「う……グッ……!」
河木が苦しそうな声をあげる。それはそうだろう。人間の痛覚というのはアニメのキャラみたいに生易しくないからな。
「く……そっ!これくらいでへこたれるかよ!」
……それでも河木は動けるみたいだ。でも、あの左腕はしばらく使えないだろう。
(それなら……そこを突く!)
剣を抜き、素早く河木の左側に体をねじ込む。左腕は大して動かせないだろうから、がら空きのわき腹を剣で斬る!
しっかり踏み込めば、俺の能力なら河木の体に少しは剣を入れられる!
「もらった!!」
ガキィィィィンッッッッ!!!!
今度は、完全に俺の耳で捉えた音だった。
「え……?」
剣は河木の体に弾かれ、それどころか俺の手を離れて、遠くの地面に落ちた。
「なん……で……?」
「なに、ぼけっと立ってんだよ!」
河木が無理やり体を回して右の拳で俺に攻撃してくる。
でもそんな遅い攻撃、俺には当たらな――
「うっ!……なっ……?」
――当たらないのに、俺の腹には深々と河木の拳が刺さり、後ろへ派手に吹っ飛んでいた。
違う。河木の拳は確実に当たった。俺は避けれるはずなのに、避けれなかった。さっきもそうだ。河木の体を斬るはずだった剣は刺さらない所か、何故か遠くに落ちていた。
理由があるとしたら、俺の力が著しく落ちている。でも『理由の理由』がわからない。俺のこの世界での戦闘能力はかなり高いのに、今はその半分くらいにしか感じない。その理由は、一体――
「みんな精神状態なんですよ」
後ろから不意に聞こえた声は――針田。いつの間にか意識を取り戻していた様だ。
「クソッ……もう気が付いたのかよ」
俺は即座に針田に攻撃しようと動こうとする。でも、動けない。足が出ない。さっきと同じだ。なんで……なんでなんだよ……!!
『最近分かったことですが、この世界に来る前より、来た後の精神状態の方が圧倒的に自分に与える力が強いようです。またこの世界には、三つの精神状態が表す能力があります。一つは『魔法』もう一つは『武器』そして『戦闘力』これらは全て精神によって成り立っています。複数の能力を意識して発動させるのは難しいらしいですが。………話が逸れてしまいました。蘭次と呼ばれた君。これまでの行動から君は正義の味方としての精神を持っていましたね?」
「なにを……言って……」
「その精神は、君の能力を飛躍的に上昇させた。本当に純度の高く、一貫した精神を長年保っていたのでしょう。それができる人はこの世界にはほとんどいないでしょう。それくらい素晴らしい精神……その上の能力だ……。しかし、微かな意識と共に見えたのは、君が河木がダメージを負ったところをネチネチと攻める所だった」
「だからなんだよ……それとこれとなんの関係が……」
「確かに戦法としては正解かもしれません。しかし、それが君の能力を支えていた『正義の味方』の精神を、『弱点をいたぶる』だけの精神に成り下がってしまった。この世界に来てからの精神状態が強く能力に作用するこの世界でね。そんな濁った精神で……高い戦闘能力を維持できるとでも?」
「……!!」
つまり、俺が長年見てきた『妄想』は、ずっと正義の味方として無双することばかりだった。その妄想がこそ世界の俺の体に作用して強かった。それが少しの間この世界で違う考えになったせいで、その能力が失われてしまった……?
「そして……一度崩れた精神は、元に戻すのは至難の業だ」
針田は、その衝撃の事実を告げた。
不思議と、『そんなはずはない!』とは思えなかった。俺はもうダメなんじゃないかという思いばかりになっていた。
「惜しい……。それだけの精神を長年持ってきていたのに、その思いは儚く消え去ってしまいました。もういよいよ……いたぶられるだけになってしまいましたね……クックック……ははははは!残念でしたねぇ、せっかくの能力は……藻屑と化した」
針田の本性が垣間見えたような笑い。俺は、ただ絶望に身を任せるだけで――
俺の妄想から始まったこの世界での物語は、早くも終わろうとしていた。
……私はこんなにも蘭次を窮地に追い込んでどうすんでしょうか……。挽回させるのも大変だこれ……。いやいや、ちゃんと多分きっと蘭次が勝つようにするはず……いや、一回負けてリベンジという案も悪くないかもしれないな(ゲス顔)はい馬鹿な事言ってないで、次回への話を書きます!ご期待あれ!




