026『金属』
「……なんで出ないんだ」
「わふ?」
地下採掘場、第9区画。
私は掘り出した鉱石の山を前に、腕を組んで唸っていた。
結論から言うと、この第9区画は『宝の山』だった。
赤く輝く『銅』。
鈍く光る『銀』。
そして赤褐色の『ボーキサイト(アルミ)』。
これら三種の混合鉱脈が、まるでバイキングのように掘り放題なのだ。
普通なら狂喜乱舞する場面だ。だが、私の顔は優れない。
「いや、おかしいだろ。地学的に考えて」
私は手元のボーキサイトを睨みつける。
私のゲーマー知識が正しければ、ボーキサイトというのは土中のアルミニウム成分が濃縮されたものだが、そこには多量の『酸化鉄』が含まれているはずなのだ。だから赤い色をしている。
つまり、ボーキサイトがある場所には、鉄だってあって然るべきなのだ。
「なのに、なんで鉄だけ綺麗に除外されてるんだ……?」
クラフトテーブルの嫌がらせか? それとも、この異世界の地質が特殊すぎて、鉄分だけが別の層に沈殿しているのか?
いやクラフトテーブルのせいにするのは違うな。彼はあくまで素材を加工してくれる便利な道具なのだ。世界に干渉するとか、それはもう神様だろ。
毎回思うけど、クラフトテーブルくんだけ時代がおかしい気がする。前にも思ったが、物資変換器と言われても信じる自信がある。それだけクラフトテーブルだけファンタジーと言うよりSFなんだよなあ。
閑話休題。
改めて思う。第9区画まで掘り進めて、レアメタルは出るのに基本の鉄が出ない。この焦らしプレイには、流石の私もため息が出る。
「はぁ……まあ、いいか」
無い物ねだりをしても仕方がない。私は思考を切り替えることにした。
現状、手元には銅と、大量のアルミがある。
「鉄がないなら、代用品を作ればいいじゃないか」
私は地上に戻り、クラフトテーブルの前に立った。
アルミは軽くて加工しやすいが、強度は鉄に劣る。だが、ここに銅を混ぜ合わせることで、劇的な進化を遂げる合金がある。
「レシピ検索……あった。『ジュラルミン』、そして『超々ジュラルミン』!」
アルミ合金の王様だ。航空機の機体にも使われる、軽くて強靭な金属。鉄ほどの重量はないが、強度は鉄に匹敵する。
「私の今の身体(美少女)には、重い鉄の装備よりも、軽いジュラルミンのほうが合ってるかもしれないな」
試しにインゴットを作成し、そこから『ジュラルミンの盾』と『ジュラルミンのコンテナ』を作ってみた。
驚くほど軽い。片手でブンブン振り回せるのに、石槍で突いても傷一つつかない硬度がある。
「……あれ? これ、もしかして鉄を必死に探さなくても、大抵のことはこれで事足りる?」
建材、道具、防具。ジュラルミンがあれば解決だ。
ステンレス(鉄+クロム)が作れないので水回りの完全防備はまだ先だが、アルミ自体も錆びにくいので代用は効く。
「……いや、ダメだ。やっぱり鉄は必要だ」
一瞬妥協しかけたが、私は首を振った。
これから先の『電気時代』を見据えた時、絶対に避けて通れない壁がある。
「『磁石』だ」
発電機を作るには、電気を通す『銅線』と、磁場を作る『強力な磁石』が必要不可欠だ。
アルミや銅は磁石にくっつかない。磁力を持たせることができない。
つまり、鉄(あるいは磁鉄鉱)を手に入れない限り、私は永遠に電気を作ることができないのだ。
「ジュラルミンはあくまで『軽量化』の素材。産業革命の主役は、やっぱり鉄なのよ」
文明の明かりを、焚き火やランタンから『電灯』へと進化させるために。
そして、まだ見ぬ『冷蔵庫』や『エアコン』といった現代文明の神器を復活させるために。
「よし、次は第10区画だ」
私はジュラルミンの盾を背負い、決意を新たにした。
第9区画までの「混合層」は終わった気がする。
万能スコップの先に感じる岩盤の感触が、より硬く、より黒く変化してきている予感があった。
「次こそは……磁石がくっつく黒い塊を掘り当ててみせる」
ポチに留守番を頼み、私は再び地下の闇へと潜っていった。




