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再会(3)

「三十から、零……」

 ジャンシールの力無い声が回廊に落ちた。


「そう、それが魔法等級、魔導士の価値そのものだ。俺はたったの十四度だとさ、どうりで何をやってもパッとしないわけだ!」

 礼拝堂の前に立ちはだかるノーリックは、ふたたび(たかぶ)りをあらわにして口を開いた。

「だがその苦しみも終わる。誰より高い場所に身を置ける…… どうだジャンシール、今ならまだ選ばせてやるぜ?」

と、立ちすくむ魔導士を大仰な身ぶりで誘う。

 ジャンシールは握った拳を震わせて叫んだ。

「そんな数字が何になるっていうんだ。魔導の本質を、融和の心を忘れたのか!?」

 黒い髪が乱れ、青ざめた顔にかかる。

 ノーリックは優しげとも言える表情でそれを眺めたが、語る言葉はジャンシールの理解をこえていた。

「進化を経れば本質は変わる。俺たちはあまりに無知だった…… エーテルに従うことしか知らない、哀れなしもべに過ぎなかったんだよ」


「待て、ノーリック・ザム! お前はギルーの死に関わっているな?」

 ゼルガーが鋭く声を上げ、ジャンシールと並び立つ。

 ノーリックはようやく憲兵へ目を向けた。薄い笑顔は冴えざえと冷たく、心は閉ざされていた。

「盗人の手には、女神自身が罰を下された。俺は後始末をしただけさ」

「ノーリック……!」

 ジャンシールが弱い足どりで進み、片手を差し伸べた。

 緑の目が悲痛にゆがむ。

「庁に戻ろう。あんたは立派な魔導士だった、誰もそんな振る舞いは望んじゃいない!」

「俺自身が望むのさ! 残念だよジャンシール、ここにきて仲よくできないとはな!」

 ノーリックの笑みが凶相に変わる。両手ではね上げたマントが空中にひるがえり、光が炸裂した。



 小部屋での攻防は、無言のうちに続いていた。

 シーダが舞うような動きでナイフをひらめかせる。追い詰められたアニスは、攻撃をしりぞけながら乱れる息を必死に押し隠した。長く囚われていた身体は思った以上に衰弱している。

 時間がない。

 そう悟った彼女はとっさの賭けに出た。振り下ろしかけた火かき棒を素早く切り返し、相手の眉間めがけて力いっぱい投げつける。

「!?」

 シーダは片袖で顔をかばったが、猛然と飛びかかってきた騎竜兵を避けることはできなかった。

 つき出された白刃が青い制服の肩を切り裂く。だがアニスは止まらず、少女を抱くようにして床に倒れこんだ。

「あっ……!」

 シーダが初めて声を漏らす。ナイフを取り押さえた瞬間、アニスの傷が一気に痛みだし、遅れて恐怖が込み上げた。

 まだあどけなさを残す顔を呆然と眺め、荒い息の下で尋ねる。

「どうして、あなたが……」

 しかし少女は表情の消えた目で見つめ返すだけだった。


 

 急がないとコレット行政官が戻ってきてしまう。

 相手の答えを諦め、アニスは動き出した。

 髪を結んでいた革紐(かわひも)を解き、シーダの手首を背で縛り合わせる。ほどけた髪の下から遠雷号が顔をのぞかせたが、少女は一切の反応を示さなかった。

 アニスは警戒をゆるめずに後ずさる。伸ばした片手が扉に触れかけた、その時。


「殺して」


 かすかな声に足が止まった。横たわるシーダがぐったりと顔を向ける。淡い光に影を作る姿は、うち捨てられた人形のように見えた。

「行く前に終わらせて。私は失敗した。もう価値がないの」

 時間稼ぎかもしれない。そう危ぶみながらも尋ねずにいられなかった。

「誰がそんなことを。行政官ですか?」

 少女はわずかに首を横に振る。

「……私の命は、“あの方”だけのために」

 それはあまりにも純粋で、寂しい声だった。

 小さな暗殺者の瞳に心が満ち、やがて涙に変わった。

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