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魔導士と小隊長(2)

 ギルー失踪を知らされたウォルメリ司祭は、職務の合間に古巣の記憶を辿りつづけたという。

 そして、モロワ所長の手紙を何度も読んだ末、ある記述に首をかしげていた。


「あなたは、ギルー君について“信仰には熱心だったようだ”と書いておられましたね。

 彼は確かによき信徒でした。

 しかしどちらかといえば静かで実直という印象が強く、特出した敬虔(けいけん)さを示したことはなかったように思います。

 私がイェリガルディンを去った後、彼を女神サイデアに向かわせる何かがあったのではないでしょうか」


「また、彼についての思い出が一つあります。

 何年も前、彼の最後の肉親が亡くなった時のことです。慰めの言葉をかけると、ギルー君はこう答えました。

 “遠くに追うべき理想があれば、身の孤独は耐えられる”と……

 古い話ですが、今度の失踪につながりがあるかもしれません」



 続く文字を読んだ所長は、思わず手紙を握りしめた。事態はイェリガルディンに留まらなかったのだ。


「手紙を受け取った翌日、何者かが部屋を探った跡がありました。

 “三十から零”についてこちらでも調べたいのですが、今は自由に動けません。どうか、あなた方もじゅうぶん注意されますように……」




 詰所で話がまとまった後、ジャンシールとゼルガーは人気(ひとけ)のない林でふたたび合流していた。

「昨日、遺体を再度あらためておいた。埋葬されると手間だからな」

 あたりをうかがったゼルガーが、魔導士に向けて声をひそめる。小隊長を見上げたジャンシールは目を丸くした。

「もしかしてこっそりやったのか、規律一本のお前が? もともとこっち側に来る気だったんじゃないか!」

「黙れ。死因は特定できなかったが、不審な点がある。他の部位にくらべ、左腕がひどく焼けていた。不自然なほどにな」

 左と聞いたジャンシールは、もうひと月以上前になる調査初日を思い出した。アニスの口にした言葉……


 “彼は左利きですね”


「左。ギルーの利き手だ」

「よし、犯人は利き手に残ったものを隠したかったのだな。炎でなければ消せない何か……」

 ゼルガーが顎に手をあてて考え込む。

 吹き抜ける冷たい風が陽だまりをさらっていく。憲兵の瑪瑙(めのう)色のマントが鋭い音をたてて広がったとき、ジャンシールの頭に閃光が走った。

 ハッと自分の右手を見る。

 跡は薄くなっていたが、確かに残っていた。親指と人さし指の間。光石づくり、エーテルの扱いにしくじるとできる未熟者の証。

「……線状熱傷!」

 大声とともにつき出された手を見たゼルガーは、「そんなちっぽけな物を?」と顔をしかめたが、魔導士は目を輝かせていた。

「俺の傷が小さいのはエーテルも小さかったからだ。きっとギルーの手には、もっと深い傷がついてしまったんだ!」



 ギルーは魔導を捨ててなどいなかった。

 それどころかまったくの反対だ。彼は、何かに強大なエーテルを注ごうとしたのではないか。


 納得しかけたゼルガーが首をかしげた。

「それほど強い力を、何のために…… いや待て、犯人はギルーの企みを止めたということか?」

「まだわからない。が、いい話じゃないだろうな」

 俺たちは証拠をつかまないといけない、とジャンシールは表情を引き締めた。

「北の丘にのぼって、エーテルの流れを確かめてくる。ゼルガー、俺が戻るまでにアニスを連れ出してくれ!」

「俺に指図するな、ブルネリアン!」

 やかましく言い合いながらもうなずき合うと、二人はそれぞれの方向へ走り出した。



                          (第四章 了 )

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

次話より第五章に入ります。

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