魔導士と小隊長(1)
「お前と話を? そんな必要はない」
にべもなく背を返しかけたゼルガーを、ジャンシールは「時間がないんだ!」と遠慮なく引きとめた。
「いいか、俺はブルネリアンでお前はリート人、だから互いに目が曇っちまう。協力する前にそれをぬぐっておきたい」
「協力!? どうかしている、たわごとは幻の羊にでも言え!」
しかしジャンシールは、赤い肩をいからせた憲兵にも怯まずこう続けた。
「盟約のことだ。古の誓い」
二つの民族の、わだかまりの発端。
思いがけず歴史を持ち出され、ゼルガーは不可解に眉をひそめた。
ジャンシールは迷いながら告げた。
「俺はブルネリアンを信じてる。盟約なんて元からなかったんだと…… だが、これは俺がそう思いたいっていうだけだ」
と、苦しそうに相手を見上げる。
「俺は過去を見られない。万に一つ、お前たちが正しいってことも、それぞれ少しずつ間違ってることもあるかもしれない」
同意しなくてもいい、とジャンシールは緑の目でゼルガーを見据えた。
「少しだけ昔を忘れてくれないか。アニスを助けたいんだ、力を貸してほしい」
ランドレン司教と会った後、彼はひたすら考え、心を定めた。
ともに真実を追おうと思える相手は、やはりアニスの他にいない。
そして今、分断された彼女への足がかりになる者といえば、この短気な石頭の小隊長だけなのだった。
ジャンシールは押しつぶされるような気持ちで待った。沈黙が長く伸び、いつ一笑に伏されるかと身を固くしたとき。
ゼルガーが表情を変えずにつぶやいた。
「……今でなければ、追い返していた」
魔導士は、いっぱいに見開いた目を相手に向けた。
この奇妙な協力体制が整ってから少し後のこと。
彼らを後押しする風が遠く王都から吹いてきた。執務室にいたモロワ所長へ、急ぎの書簡が届けられたのだ。
差出人の名は空白だったが、彼女はハッと背筋を伸ばした。
「ウォルメリ司祭……!」
待ち望んだ返事に違いない。卓の物を何もかも払いのけ、もつれる指で封を切る。
開かれた薄い紙の中、繊細な字が語り出した。
「ハドマント・ギルー君について、私の知るいくつかをお知らせします……」




