表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/78

魔導調査員ジャンシール(2)

 二人の間には鳥かごのようなランタンが吊られていた。中に置かれた光石(ひかりいし)がかあっと輝く。

 じりじりした明かりを受けたモロワ所長は、色あせた青い目をしばたかせた。彼女が気にかけるということは普通でない証拠だ。

 よく心得ているジャンシールは、

「不審な点でも?」

と短く尋ねる。

「ハドマント・ギルーはとても仕事熱心でした。まだ若いけれど、次の春から第二区の副長になることが決まっていたのです。本人にも伝えていたのですが、消えてしまうとは……」

と、所長が白と薄茶の混ざる頭を振った。

 職業に関わらず、成人の失踪について憲兵隊はまともに取り合ってくれない。例外は貴族などの要人、そして彼らの身内ぐらいのものだ。

(さと)に帰ったって線はどうです」

「彼は故郷を持ちません。親を亡くしてからは、一人でこのイェリガルディンにいました。外に身寄りもないはずよ」

「いたけど、知られたくなかったのかも」

 ジャンシールが思ったまま口にすると、所長は分厚い顔をしかめた。在籍する魔導士たちを我が子のように思う彼女にとって、あまり楽しい推理ではない。

「ええ、あるいはね。お調べなさい、ジャンシール。あなたは調査部員として登録されているでしょう」


「と、親愛なる大魔導士さまはおっしゃいますけど……」

 青年は椅子の上で頭をかいた。

「調査部のこれまでの仕事はご存知で?」

「もちろんですとも。光石の数がどうしても合わなかったとき、夜更(よふ)けまで庁舎中を探してくれました」

 持ってきたのはあなただった、と所長が微笑む。

「そうそう、石畳の隙間に転がってて! あとは寮から逃げた小鳥を追って…… あのですね、つまり人は探したことがないんですよ」

 彼は途方に暮れる。しかし老いた魔導士は卓に手を組んでじっと若者を見つめた。

「ジャンシール。みなが気づかず通りすぎていた物をあなたは拾い上げた。いま私が必要としているのは、まさしくその目です」



 期待と信頼を無言で表され、ジャンシールはついに立ち上がった。

「おおせの通りに!」

と胸に手をあてて一礼すると、襟元につけた身分記章、魔導士のメダリオンが誇らしげに鳴った。

「ひとつやってみましょう。あんたの頼みなら仕方ないですね」

 素直な忠誠を返された所長はふたたび微笑んだが、情報を記した用箋(ようせん)を手渡すと、珍しく煮え切らない表情でこう付け足した。

「明日、調査を始める前に、顔合わせをなさい」

「それは相棒ってことですか。調査部の誰が?」

「いいえ、変則事項よ。憲兵隊から単独で捜査活動はするなと釘を刺されました」

「げっ、それじゃああいつらと!?」

 ジャンシールがつい声を上げたが、次の言葉に気を取られていた所長は彼をとがめなかった。

「相手は憲兵ではなく……」

と部下を見やる。

騎竜兵(きりゅうへい)、です」


 ジャンシールの緑の目はいよいよ一杯に見開かれた。

 やっぱり、とモロワ所長は考える。うちの二代目の猫とそっくりなんだわ。

 聞かん気でいたずらっ子、とびきりの冒険好きだった。中身まで似ているとしたら、この任務に彼ほどふさわしい者はいない……

「確かに頼みましたよ。われらの行く末に女神の加護のあらんことを」

 扉の向こうに消えていくときも、ジャンシールはまだ猫の顔をしていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ