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相棒は竜の上から(1)

 イェリガルディンのみならず、この国の市民は日々の仕事にロバを使う。高価な早馬や馬車を持てるのは貴族や憲兵たちだ。

 そして、騎“竜”兵が乗るものといえば……

 足を進めるごとにグーグーとくぐもった鳴き声が近づいてきて、ジャンシールはマントの下の両腕をさすった。

 ここは中心地から外れた町の端、低い家々のむこうに草木をたたえた丘が続く。小高い一角にりんご畑があって、豆粒みたいな人々が忙しく働いているのが見えた。

 本当なら今夜は、いつもの店でりんご酒を一杯やるつもりだった。

 彼は少しだけ恨めしく思う。しかし所長じきじきの指名とあらば、命とはいわずとも酒ぐらい投げ出せなくては。

 行ってやろうじゃないか、魔導庁の代表として!

 彼は気合いを入れ直し、ななめになった屋根の石組みの建物へずんずんと歩み寄った。


 そして開ける扉を間違えた。

「うわぁっ!?」

 ヒュッと飛び出してきた何かがマントごしの脚に勢いよくぶつかる。反射的に腰をかがめたジャンシールの目の前に、「クー」と首をかしげた細長い顔があった。

 竜。

 トカゲにも似た、太古から今に姿を残す不思議な生き物。

 まだ子供だ。きめの細かい(うろこ)は淡い緑色で、大きな眼は黄色く、くっきりした虹彩が縦に走っている。

 ジャンシールが硬直していると、ぱく、と開けた口から長い舌が伸び、彼の頬をぺろりと舐めた。やわらかく温かく、湿っている……

「いっ……」

「おっとっと、そのまま包んどいてくれ!」

 ヨロヨロとやってきた老人が慌てて手を伸ばし、仔竜の首輪を優しく引き止めた。

「はいどうも。親が外回りに行ってると落ちつかんでね、近ごろは柵も飛び越えよる」

と額をぬぐう彼は、よく見るとくたびれた青色の上着を引っかけていて、胸に身分記章をつけていた。そこに記されしは竜の絵柄、ということはれっきとした騎竜隊(きりゅうたい)の一員だ。


 ……この爺さんが相棒だったら?

 不安がよぎったが、ともかくジャンシールは自分の記章を示した。

「俺は魔導庁調査部のテアドレ、モロワ所長の(めい)で来た。クウィントという隊員はどちらに?」

 そう言いながら三角フードを下ろす。癖のある黒髪と緑の目の青年を前にすると、老人の表情はスッと薄く遠のいた。

「ここの者に何の用だね」

 あからさまに硬くなった声音にもジャンシールは動じず、「合同調査に出てもらう。憲兵隊から話が届いてるはずだ」と辛抱づよく説く。

「わしらは聞いていないが」

「会わせてくれればわかる。それで当該人物はここにおいでかい、騎竜兵どの?」

 親しげな笑顔を向けても、相手は仏頂面で「待っておれ」と奥を指すだけだった。礼を言われるのを避けるように、仔竜を引っぱってそそくさと消えてしまう。

「……まあ、よくあることだ」

 俺も気が長くなった。

 魔導士は、ひとつ肩をすくめて竜舎の中を歩き始めた。

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